豊島逸夫の手帖

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マンデラ氏死去、プラチナ価格に透ける南アの光と影

2013年12月6日

プラチナの生産の8割は南アに集中しているので、年に3回程度は「南ア鉱山ストライキ」「電力不足顕在化」などの政情不安でプラチナ価格が急騰する。年中行事のようなもので、市場変動要因としては一過性なので、プロは「吹き値売り」の機会と捉えるほどだ。
実際、南アに行くと、アパルトヘイト撤廃後、社会不安は悪化していることを実感する。
人種隔離政策の壁が崩壊すると、黒人たちはそれまで目の当たりにすることのなかった白人の生活水準との格差を肌で感じるようになった。同時に、その格差がアパルトヘイト撤廃後は改善され、白人並みの生活をおくることができるという期待感が強まった。
しかし、権力の座についたANCにガバナビリティー(国家統治能力)は欠け、コネ・賄賂などの腐敗が横行。民間企業にも、法律的に黒人の経営参加が義務づけられると、白人の経営陣の「海外への頭脳流出」が加速した。
ANCへの貢献度が高い人物が「ごほうび人事」で政治・経済の上層部に加わると、「市場原理」とは「隔離」された発想がまかりとおる。

最近の例でいえば、ベネフィシエーションと呼ばれる政策の導入論議が、その典型だ。
資源輸出国として、プラチナという希少資源に国内で付加価値をつけ輸出する、という政策である。具体的には、例えば、国内で「南ア製」プラチナ宝飾品の製造産業育成を促進するため、プラチナ鉱山会社に対して、国際価格より安い卸し価格での国内プラチナ販売を義務づける、という案が出てきた。これにはプラチナ鉱山が死活問題だと猛反対。ただでさえ、プラチナ価格は1350ドル台まで低下。1400ドル前後といわれる生産コストを割りこむ状況が続いているからだ。これに対して、政府側は、「鉱山国有化」をちらつかせる。
この政策的発想は中国に似ている。
上海で取引所幹部(中国人民銀行からの天下り組)に、金プラチナ価格の動向を説明していたときのこと。「生産者の売りが増えれば、価格は下落する」と語ったところ、最前列のトップが「それは違う!売らせなければいいのだろう。」と反論してきた。
「売れば価格は下がる」「売らせなければいい」。この押し問答でプレゼンテーションの30分以上が費やされ、結局、この部分は「議論棚上げ」して、話を次に進めたものだ。
このように、南アでも中国でも、理想と現実の差を思い知らされてきた。

南アの社会不安が悪化を痛感したのは、鉱山会社の白人社長宅に招かれたときのこと。ヨハネスブルグの高級住宅街なのだが、豪邸が刑務所のような塀に囲まれている。この塀の内と外では別世界。きらびやかなパーティー会場から、一歩、塀の外に出ると、正門に拳銃のイラストつきの警備会社のスティッカーが貼られている。「近づくと本当に撃たれる」可能性さえあるので、けっしてうろつくな、と繰り返し念を押された。歩いて5分の学校へも子弟を車で送り迎えしている。
仕事の打ち合わせは、殆どがヨハネスブルグ近郊のサントンという白人の街で行われる。
アパルトヘイトが撤廃され期待感が高まった分、黒人の失望も強いのだろう。
南ア要因によるプラチナ価格急騰現象が治まるまで、まだ時間がかかりそうである。

2013年