豊島逸夫の手帖

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CPI発表後、NY金1900超え、円高進行も

2023年1月13日

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市場大注目の12月CPI(消費者物価指数)はほぼ事前予測内の結果となった。年率7.1%から6.5%へ低下。しかも前月比ではマイナス0.1%、つまり物価上昇から物価下落に転じた。2022年に9%台まで上昇したが明らかにインフレ鈍化傾向が見て取れる。朧気ながらもインフレの出口が見えてきた。これで2023年市場予測もかなり視界の開けた感がある。NY市場では先走り気味に「ゴールディロックス=適温経済到来」と米国経済軟着陸の現実味が語られる。市場が予想する到着金利も5%を割り込んでいる。FRBが年内にも利下げへ転換するシナリオも現実味を帯び、米債券市場ではドル金利低下に歯止めがかからない。外為市場ではドル売り・円買い・ユーロ買いに拍車がかかる。ドル金利安、ドル安となれば金には上げ圧力がかかる。「インフレヘッジの買いはどうなの?」との素朴な疑問も残るが、強いインフレ傾向鈍化と言えど、長く続いたディスインフレの時代に比べれば、間違いなくこれからは長期的基礎的インフレの時代となるのは必至だ。既に日本の物価上昇率も年率4%台に乗ってきた。

問題はCPIでこれだけ「状況証拠」が揃ってもFRBの利上げ継続姿勢は変わらないこと。せいぜい一回の利上げ幅を0.25%に「正常化」する程度だ。到着金利5%超え、且つ同水準を年内或いは2024年まで維持との見解も変わらない。12日にはフィラデルフィア地区連銀ハーカー総裁が0.25%刻みの利上げを支持した。セントルイス地区連銀ブラード総裁は「一刻も早く政策金利を5%以上に設定すべき」と語った。

FRBはこれほどCPI低下傾向が明らかになっても、なぜ「タカ派姿勢」を変えないのか。
11日のウェビナーにおけるサンフランシスコ連銀デイリー総裁の答えが明解だ。
「住宅関連を除くサービス業価格(コアサービスと呼ばれる)の上昇が抑え込めない。財とエネルギーの価格は供給制約緩和により下げ基調。更に住宅価格が下がると通常16~18か月のラグで家賃も頭打ちとなることも読める。しかし労働集約的なサービス業の価格水準には全くと言っていいほど下落傾向が見られない。歴史的にもサービス業価格は下がり難い。それゆえ私も到着金利予測を5%超の水準に置いている。」と明言している。
12月CPI発表後にNY市場に流れたグラフでもCPIのコアは明らかな下落傾向だが、コアサービスは上昇傾向と対比が鮮明だ。

なお、コアサービス統計はCPIではなく、FRBが重視する米個人消費支出(PCE)統計の方に含まれる。11月PCEでは外食や宿泊関連を中心にサービス支出が伸び、新車中心の財への支出の減少と対照的な結果となった。それゆえ市場は1月27日の12月PCEの発表からも目が離せない。

そして今後の金・外為市場展開は?
12月CPI発表後に進行したNY金高・円高だが、PCEのコアサービスにまで下落傾向が確認できれば、更なるNY金高・円高が見込まれる。
逆にサービス部門価格や人件費が引き続き高止まりすれば、FRBの利上げは「より高く、より長く」なり、一転NY金安、更にドル高・円安再燃のシナリオとなる。

筆者は毎度語ってきたように筋金入りの円安派。この程度の円高などは長期的な推移の中の一幕と見る。今年は日銀総裁も変わるが日銀の政策選択肢は極めて少ない。日銀クラブが騒いでいるだけだ。
例えば日本で0.75%刻みの利上げ4回など考えられない。同じ金利上昇でも日米では大きな差がある。

なお、NY市場の逆イールドもCPI発表当日にエスカレート。特に市場の眼は「10年債と3か月財務省証券」のイールド格差に集中してきた。長短金利差マイナス幅が1.2%(120bp)を超えるという歴史的な乖離を示しているのだ。桁違いの逆イールドとなってきた。これは利上げ不況が深刻となる可能性を映すシグナルとして、安全資産としての金の視点で注目すべきポイントである。

2023年