豊島逸夫の手帖

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日銀会合、NY市場の注目は、日本勢の米国債売却

2023年9月25日

円安による円建て金価格の史上最高値更新が頻繁に生じている。もはや円安次第と言っても過言ではない。

そこで本稿では先週金曜日の日銀会合で円安傾向が長期化する可能性について記しておく。

そもそも日銀金融政策決定会合は昨年までNY市場で見向きもされず話題にもならなかった。それが新総裁就任後、政策修正の可能性が報じられると急に注目度が高くなった。下調べしているようで日本時間昼過ぎには声明文発表、午後3時半からは記者会見と、既に心得ており、「当方は深夜だが何か異変あれば構わず電話してくれ」と頼まれることも珍しくなくなった。
彼らの関心は、まず金利のない市場環境に慣れ切った日本の機関投資家たちが、日銀政策修正を受け保有米国債売却から日本国債購入へ運用資金のレパトリをどの程度行うかということだ。

日本は今や最大の米国債保有国(除く米国)ゆえ、その売買動向を米国債券市場は常にチェックしている。米国側から見れば時間外となるアジア時間帯でも米国債売買は行われるので、NY時間の早朝から値動きをフォローしている「early bird 早起き鳥」も少なくない。そこでの米国債利回り変動がNY市場オープン後の債券価格変動を誘発する事例も少なくない。

更に、NY外為市場でも円売りポジションが最大級の規模まで膨らむ中で、日米金利差に影響を与える植田発言への注目度が高まっている。但し新総裁がイールドカーブコントロールやマイナス金利について語れば語るほど日銀の持ち札の限界も露わになる。植田氏は英語が流暢で公式の場でも英語でジョークを飛ばすほどなので、過去の日銀総裁に比し欧米市場の親近感は強い。しかし同時に円安抑制が日銀にとって難題であることも伝わってしまう。ポルトガルのシントラでECBが主催した中央銀行フォーラムで、植田氏がパウエル氏、ラガルド氏らと壇上で議論した時のことだ。植田氏が「私は20年以上前に日銀審議委員を務めたが、その時の金利は20から30ベーシス(1ベーシスは0.01%)であった。それが今はマイナス10ベーシス。金融政策が効果を発揮するのには25年はかかるのではないか。」と即興のジョークで応じた時のこと。瞬間的に会場は拍手も交え笑いの渦と化した。しかし同時に日銀の政策修正は「氷河の移動並みのスローペース」とも評され、円売り投機筋に自信を与える結果にもなってしまった。

植田総裁が読売新聞インタビューでマイナス金利撤廃に言及した時も、牽制発言のはずが「やっと金利が消えた時代からの脱出の段階」と意識され、結果的に148円台までの円売り攻勢を抑制できなかった。
欧米市場での好感度は高いので植田氏に対する同情論も目立つ。「彼はそもそも勝ち目がない(no win)状況に置かれている。誰が日銀総裁になっても妙案はない。」とも言われている。

なお、為替介入も当然話題になっている。時あたかも9月FOMCでドル金利が「高く、長く」続くことがほぼ確認されたので、実弾で円売りを抑え込んでもグローバル規模のドル高の潮流には逆らえず、介入で円高に大きく振れればそこから新たな円売りポジションを醸成する投機筋の意図が透ける。今回は介入がもぐら叩きになるリスクを孕む。

2023年