豊島逸夫の手帖

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雇用統計と中東有事で国際金価格底入れ

2023年10月10日

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イラク戦争が勃発した時、金価格は上昇後「吹き値売り」に見舞われ、結局下落した。プロの手口は「噂で買って、ニュースで売る」。特に「火薬庫」と言われる中東発の地政学的リスクは陳腐化も早い。

今回の中東情勢急変ではハマスによる突然の市街戦勃発という劇的な展開で、金価格も週明け月曜日朝のアジア時間帯にいきなり20ドル超の急騰を演じ、その後もNY時間で続騰。スポットで1860ドル超を付けている(KITCOグラフ緑線参照)。地合いとしては先週までは下げ続け、1800ドルという下値抵抗線の攻防戦を繰り広げていたが、雇用統計発表後に空売りの買戻しにより、反騰モードにはあった(KITCOグラフ青線参照)。

先週金曜日に発表された雇用統計は新規雇用者数30万人超えと事前予想の18万人程度を大きく上回った。これを受けてFRBは労働市場過熱を冷やすため追加利上げを決行するとの解釈が優勢になり、金は売られ1800ドル割れかと思いきや国際金価格は反騰したのだ。結局金市場は1900ドル台からあれだけ売られてoversold(売り超過)の状態にあり、空売り投機筋の買戻しが起きたわけだ。さすがに1800ドルを割れば、下げ過ぎの割安感が出ると思ったのであろう。

結局1800ドルで底入れした形になっている。
但し、有事の金買いで上昇した部分は最悪のシナリオに発展しない限り早晩剥落する可能性が強い。背後の火付け役とされるイランとイスラエルが全面戦争となり、サウジアラビアも巻き込む事態に発展すれば「最悪」となるが、現段階ではそこまで読み切れない。結局金市場へ持続的影響を与えるのは、やはりFRBの金融政策と米議会混乱で露わになった米財政不安だ。来年の利下げへのピボット(転換)や米国債格下げによる米ドルへの信認低下。その結果世界の中央銀行が外貨準備のドルを減らし、公的金保有量を増加させている傾向は一過性とは言い難い。

連日報道されるガザの衝撃的映像は悲劇的であり、イスラエル・パレスチナ問題に大きな禍根を残すことは間違いなかろう。ただマーケットには実質金利のような金融要因がジワリ、ボディーブローの如く効いてくるのだ。

2023年