豊島逸夫の手帖

Page3748

中国の金計画生産

2023年7月4日

中国の金生産量は世界一と言えど年に300トン強。豊富な埋蔵量があるのに、敢えて採掘を一定量に抑制して、国内の希少資源温存を優先させている。その代わり習近平氏自らアフリカ諸国に赴き、現地の金などの資源開発に関与して、直接輸入を増やす動きを見せる。ここでもチャイナマネーがばら撒かれている。輸出入決済は人民元というケースが多い。

一方、中国国内の金生産と言えば、まず山東省が思い浮かぶ。

招遠市は市の中心部入り口近くに「金都」という看板が建てられるほど金に特化した市だ。コロナ前には招遠黄金祭りが開催されていた。「黄金文化に更なる発展と黄金の都のブランド力向上」がテーマであった。「招遠市が持つ悠久の黄金文化と濃厚な郷土文化の融合」を目指している。単に金採掘だけではなく、できる限り現地にカネが落ちるように金宝飾品などの加工産業養成にも力を入れる。更に大きな宝飾店もあり、流通の末端である小売にまで参入している。たまたま筆者が招遠市から青島空港までバスに乗った時、イタリアンブランドのスーツを着こなしたカッコいい御兄さんたちの一団と一緒になったことがある。イタリア出張で最新の宝飾デザイントレンドを学び、且つイタリアの企業と共同子会社を創設するとの話であった。しかしイタリア側では中国人が嫌われている。宝飾展示会でブースに展示されている新製品の写真を撮ってデザインを「盗む」ことが常態化していたからだ。それゆえ筆者も中国人と間違われると追い払われたこともあった。未だに中国人を敬遠する傾向は変わらないがチャイナマネーの威力は無視できないというのが本音。EUの中でもイタリアは特に親中国系が多く、政治的にも中国寄りの姿勢が目立つ。

話を中国の金生産に戻すと、中国はとにかく金を何らかの形で国境内に置いておけば、全体主義国家ゆえいざという時に召し上げればよいという発想を感じる。国民には金製品を持たせる。国内の金鉱山はそこそこ金を生産してくれればよい。国境内の金埋蔵量を減らしたくはない。

そもそも国民は人民元紙幣を信ぜず、金製品は大好きというお国柄だ。中国最大の銀行(今や世界最大の銀行)である中国工商銀行も17世紀上海の金銀両替商が原点であった。やはり中国には金の「フランチャイズ」があるのだ。その点日本はと言えば宝飾品の世界でフランチャイズがあるのはやはり真珠であろう。歴史的に秀吉の黄金の茶室とか金閣寺もあるが、金色より銀色を好む傾向もあった。JRに乗っていて対面の女性が大振りの金ネックレスやバングルを着けていると、それとなく中国系と知れたりする。日本人女性は一般論だが、小ぶりでプリティーなゴールドやプラチナジュエリーを選好する傾向がある。ただし世代別にはゴールド系のジェネレーションもいる。いろいろあって興味深い。

写真は中国工商銀行上海支店(と言っても高層ビルだが)の中に再現されていた17世紀創業時の支店風景(蝋人形館になっていた)。
GOLD AND SILVER MONEY EXCHANGEという英文の看板が分かり易い。
3748①.jpg中国の金はおカネでもあり、宝飾などの素材でもあり、スマホ製造には欠かせないハイテク用素材でもあるのだ。それゆえ国内備蓄を常に優先させる。数千年続いた金文化は変わるまい。
3748②.jpg

2023年