豊島逸夫の手帖

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PCEインフレ率と金

2023年121

11月30日のNY市場の注目は、FRBが最も重視する物価統計である「PCEコアインフレ率」発表。結果は事前予測どおりで年率3.5%。
順調にインフレ減速が進行しているとも言えるし、最終目標の2%までまだ距離があるとも言える。
市場はインフレ減速を評価するが、FRB側は未だインフレ再燃リスクがあるので慎重な姿勢だ。

NY金は10ドル程度反落したが、為替が円安に振れて148円台に戻ったため、結果的に円建て金価格は史上最高値をまた更新。
NY金は12月限で2041ドル。中心限月の2月もので2059ドル。史上最高値2089ドルに手が届く水準で推移している。
NY金市場も高値更新の期待感で盛り上がっている。30日は反落したものの、絶対的価格水準としては歴史的な高値圏だ。

来週、再来週にかけて重要経済指標が待ち受ける。
ISM景況感指数、雇用統計、CPIなどなど。
サプライズあれば一晩で歴史的高値更新となる地合いである。
それゆえ筆者も眠い目をこすりつつ、毎晩相場をフォローしている。

なお、来年の金相場についてトランプリスクが無視できなくなったことを書いたが、これが「もしトラ」リスクと呼ばれている。「もしもマジにトランプ氏が大統領になってしまったら」という意味合いだ。
そういう国が発行する米ドルという通貨への信認が低下するのは当然のこと。外為市場のドル安とかドル高とは異次元の長期的米国への不信感と言える。

なお、昨日日経電子版の筆者コラムに書いた原稿を以下に採録する。

パウエル議長が恐れる利下げ株高

米連邦準備理事会(FRB)のウォラー理事発言後の市場の大きな反響に、最も警戒感を抱いたのは、ほかならぬパウエル議長であろう。そのような議論が、ウォール街では、話題になっている。

結論から言うと、利下げを決断・発表した瞬間から株価は急騰、個人消費は活性化して、結局、インフレが再燃してしまう可能性がある。

それゆえ、パウエル氏の立場では、容易に利下げへの転換を決められないのではないか。

たしかに、インフレとの戦いに勝利宣言を出した途端に、市場環境に心理的緩みが生じ、投機的アニマルスピリッツ(獣性)を刺激する事態には現実味がある。特に、人工知能(AI)、アルゴリズム、高速度取引の発達で、売買そのものが人間の手を離れ、機械化してゆく過程では、市場の反応も想定を超える規模になりやすい。

米大統領選がある2024年に利下げへ転換するのも、経済的視点に立てば危うい。FRBは政治的独立性を保つとはいえ、議長任命者のバイデン大統領から早期利下げ転換を促す圧力がかかる可能性は捨てきれない。

さらに、パウエル議長の決断を悩ましくする理由がある。歴史的に最速とされる今回の利上げの効果が、タイムラグによりまだ出きっていない可能性があるからだ。しかも、その有無をパウエル議長が読み切れない。金融政策の効果が浸透するのに通常1年から1年半かかるとするのが定説だが、それ以上の期間を要するとのエコノミスト見解もある。要は、利下げへの転換の直前に、思わぬ隠れた経済指標の悪化が顕在化して、利下げ見送り。あるいはすでに利下げ決定後であれば0.5%や0.75%などの大幅利下げを強いられる、というシナリオだ。これはオーバーキル(引き締め過ぎ)のリスクがある。例えていえば、入院患者の退院前に点滴を外したら、想定外のショック効果が生じた、というような可能性である。

この点について、29日にシカゴ連銀グールズビー総裁は、時節柄、感謝祭に各家庭で振舞われる七面鳥の調理に例えて語っている。

「七面鳥を自宅で焼くとき、やや生焼けの部分が残る段階で、オーブンから出し、余熱で自然にウェルダン(よく焼けた状態)になりつつある状態で、テーブルに供するのがコツだ。金融政策も同じこと。インフレターゲットに接近したところで、景気抑制的引き締めは相対的に緩めるべきだ」

米国経済軟着陸を語るは易し、行うは難し。

シェフ・パウエル氏の腕前が問われることになりそうだ。

2023年