豊島逸夫の手帖

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FOMC後、金価格上昇のワケ

2023年616

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注目の6月FOMCは想定どおり、これまでの利上げ効果を点検するために利下げは見送り。
しかしその後にビッグサプライズ。
FOMC参加者は7月以降、12月まであと4回のFOMCで2回の利上げを見込んでいることが判明したのだ。
7月再利上げはある程度想定されていたが、2回というのは全く市場の想定外であった。

パウエル議長はまだインフレ抑制が道半ばと見ているようだ。あと2回は利上げを続けないとしつこいインフレがぶり返すリスクがある。
とは言え、ただでさえ昨年から僅か1年間でゼロ金利から5%の水準にまで史上最速利上げを強行してきたので、これ以上利上げを重ねればまず引き締めが強すぎて景気が悪化するのは必至。
更に米国の地銀が大量に保有している米国債の価値も、政策金利が今より0.5%も上昇すればますます減価して含み損を抱えた銀行が破綻するリスクが高まる。
それゆえ市場は追加0.5%利上げは間違っていると断定した。
市場の視点では12月政策金利水準が今より0.5%高い5.50~5.75%のレンジになる確率は僅か6%!
これほど市場がFRBの見解を疑い反旗を翻すことも珍しい。

仮に本当にあと2回利上げすれば、金利を生まない金の国際価格は1800ドル程度まで急落するであろう。
しかしマーケットは7月FOMCでせいぜいあと1回利上げする程度と読んでいるのでいよいよ利上げも最終局面。野球に例えれば8回裏程度ということで、利上げが天敵の金価格は重しが取れたように上昇したのだ(KITCOグラフ緑線参照)。

因みに利上げ2回なら、外為市場で日米金利差拡大を理由に円安が145円程度まで進行しても不思議はない。しかし外為市場もFRB見解を信じないので140~141円程度の円安に留まっている。本日は日銀金融政策決定会合があったが想定どおり超金融緩和継続が決まった。日米金利差は開いたままだ。円安トレンドも変わらない。従って円建て金価格には為替面で上昇圧力がかかりやすい。
今後も注目点はFRB高官発言。
これについては別稿↓(中級者向け)を参照されたい。

年内米2回利上げ確率は6%、市場はFRBに公然と反旗

市場がFRBの金利政策に対して反論を強めている。
まずFOMC後のパウエル議長記者会見直後に「債券王」と言われるガンドラック氏が米経済専門テレビに生出演して「FRBはもはや利上げできない」と断言した。インフレは順調に下落基調にあり、これ以上利上げすれば景気後退や金融危機を誘発しかねないとの懸念が背景にある。
更にゴールドマン・サックスなどの米大手金融機関が相次いで、年内あと4回のFOMCで利上げは1回だけとの予測を発表した。
FEDウォッチでも年末12月の政策金利が5.50~5.75%(利上げ2回に相当)となる確率は6%に過ぎない。

FRBの公的予測に対してマーケットが間髪入れず、これほど「不同意」の姿勢を明示することは極めて珍しい。
FRBに対する信頼感も低下して「FRBを信じるな」がNY市場内で合言葉になるほどだ。
市場が不安定になればパウエル議長がハト派的発言で下値を支えてくれる期待が生まれ「パウエルプット」と言われ、合言葉も「FRBには逆らうな」であった時期との対比が鮮明だ。

FOMC内部でも意見が割れているだけに、今後マーケットはFRB高官発言に反応して動く局面が増えそうだ。
利上げに積極的なタカ派としてはセントルイス地区連銀ブラード総裁、クリーブランド地区連銀メスター総裁、ミネアポリス地区連銀カシュカリ総裁、リッチモンド地区連銀バーキン総裁、ダラス地区連銀ローガン総裁、ウォラーFRB理事、ボウマンFRB理事らの名前が市場では取り沙汰される。
対してハト派陣営にはジェファーソン副議長、フィラデルフィア地区連銀ハーカー総裁、シカゴ地区連銀グールズビー総裁、ボストン地区連銀コリンズ総裁らの名前が並ぶ。
ニューヨーク地区連銀ウィリアムズ総裁、サンフランシスコ地区連銀デイリー総裁、クックFRB理事、バーFRB副議長(金融規制担当)は中庸派とされる。
更に6月FOMC議事録も常になく注目度が高い。

なお、日銀は黒田総裁時代には「永遠のハト」とNY市場内では言われていた。本日大規模緩和を維持した植田日銀がハトから変身するのはいつか。これもNY市場の関心事である。

それから、テレビ朝日グッド!モーニングで一般視聴者向けに分かりやすく説明した日本株についての写真。報道ステーションの方はインタビューを撮ったが自衛官射撃事件で飛んだ。


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そして今日の話題はNYの最新トレンド。午後5時に夕食を食べること。これ、在宅勤務に慣れたライフスタイルゆえの珍現象。夜は自宅で家族と楽しく過ごす。外食はコロナ前に比し頻度が減っている。一時はリベンジ消費でレストランに殺到したが、一巡すると「まぁ、今夜は家で食べるか」というムードが強まる傾向。ニューヨーカーも以前より地味になってきた感。

2023年