豊島逸夫の手帖

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CPI4.9%、インフレ抑制と銀行危機回避は両立するか

2023年5月11日

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注目の4月CPIはヘッドラインで見れば、5%の大台を割り込み4.9%台とディスインフレ傾向を追認する結果となった。但しコアで見れば、5.5%と引き続き高止まりである。NY金市場の評価も割れ、不透明感強まる中で急騰後急落。投機筋が暴れ、行って来いで、結局振り出しに戻った感がある(KITCOグラフ緑線参照)。
バタバタしたが結局2030ドルは維持した。地合いは強い。本日はPPI(生産者物価指数)発表がある。何か大きなマーケットイベントがあれば、いつNY金が史上最高値を更新しても不思議はない。

以下は中級者向けマクロ経済視点の原稿だ。今日は旨いモノ写真はなし。極めて真面目な日(笑)。

パウエルFRB議長にとっては悩ましい成り行きだ。
インフレ抑制を優先させてきたが、ここにきて銀行危機が最も切迫性の強い問題として浮上した。もはやこれ以上追加利上げすれば、現在の与信環境で新たな銀行破綻や金融不況を誘発しかねない。銀行規制を強めれば、信用収縮が起こり利上げ1回分の引き締め効果をもたらすとも言われる。かと言って利上げを停止すれば、10か月連続のCPI鈍化傾向に冷や水を浴びせる結果となりかねない。特にCPI4%台から2%への過程では最も頑固なインフレ要因が待ち構えている。労働集約的で賃金が下がり難いサービス産業という難敵である。パウエル議長も変動の激しい住居費を除くサービス産業の価格指標を「スーパーコア」として最も重視していることを明言してきた。

マラソンに例えれば、インフレとの戦いが35キロ地点を通過したところで最終ゴール点が突如2か所に増えたような成り行きだ。
2か所のゴールのどちらにも辿りつけず熱中症で頓挫するリスクもある。インフレと不況が同時進行するスタグフレーションだ。そこで利下げというカンフル剤を投与したところでインフレがぶり返す副作用が懸念される。
加えて債務上限問題解決の目途が立たず、米国債デフォルトはあり得ないにしても、米国債格下げや財政緊縮のリスクは現実味を増している。
債務上限問題は政治的に瀬戸際政策(ブリンクマンシップ)と言われるが、パウエルFRB議長も金融政策の瀬戸際に立たされているのだ。
金融・財政のリスクが共振する経済環境は実に危うい。

さすがのバフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ社の決算も株式保有を減らし、3か月ものなどの財務省短期証券保有で年率4~5%程度の利回りを得たことで凌いでいる。なぜ短期国債に4%以上の利回りかと言えば、足元では債務上限不安が強まっているからだ。敵失で何とか得点を重ねたとでも言えようか。

マクロ視点で俯瞰すれば、今回のインフレの発生源のひとつにコロナ対策としての巨額財政ばら撒きが挙げられる。皮肉なことだが、その財政支出が債務上限問題合意の条件として削減されるとインフレ抑制効果には資するであろう。
最終的には縮小均衡というグラウンドで市場経済が本格再開されることが望み得る軟着陸ではあるまいか。

2023年