2023年2月13日
本命の雨宮さんが「辞退」して、ダークホースの植田和男共立女子大学教授が次期日銀総裁候補となった。
日本の経済メディアはハチの巣を突っついた騒ぎだが、海外では例えばウォールストリートジャーナル紙はトップページではなく、マーケット面の4番記事に次期日銀総裁人事の記事を載せていた。
要はNY市場の視点では誰が次期日銀総裁になろうとも日本経済に大きな変化は起きないと読んでいるからだ。筆者もウォール街の友人たちに日銀総裁について色々話を試みた。しかし彼らは興味もなく、考えたこともないから私の質問に答えようがない。「悪いな、よく分からん」でおしまい。
確かに誰がなろうとそもそも日銀の金融政策手段は限られているので動きようもない。仮に1%の利上げでもやろうものなら東京市場を金融財政ショックが直撃するだろう。日経平均は暴落するだろう。10年も黒田流ゼロ金利(マイナス金利)と異次元の量的緩和に慣らされてしまったのだ。日銀の超緩和政策がなくなれば日本の企業は中毒症状を引き起こすであろう。大手格付け会社S&Pはそれを理由に日銀が金融正常化(利上げ)を急げば、日本国債の格付けを再検討せねばならないとしている。
筆者もセミナーで次期日銀総裁について聞かれるとこう答えてきた。「では、次の日銀総裁は誰になるか。誰がなったって、できることは限られています。(海外市場のプロたちは)もう足元を読んでいるのですよ。」(2022年11月18日の経済俱楽部講演。ここは90分の講演と質疑応答を全て書き起こして会員に配布している。この講演が4434回目)
それからバーナンキ、イエレン元FRB議長が両氏とも民間のブルッキングス研究所に籍を置いていた頃、ある座談会でイエレン氏がこう語った。「(おカネをばら撒いた)バーナンキさんの後始末(おカネの回収)を私が実行することになって、損な役割だと思いましたよ。」と軽く冗談っぽく話したことがあるが、同氏の眼は笑っていなかった。
今回の日銀総裁人事はおカネをばら撒いた黒田さんの後始末役で「マネーを回収する」という貧乏くじを植田さんが引き受けるわけだ。本命視されていた雨宮さんが辞退したのはたぶん正解だと思う。日銀生え抜きで実態のヤバさが分かっているからこそ身を引いたのだと思う。
金融正常化(利上げ・量的引き締め)は「言うは易し、行うは難し」。
学者出身の日銀総裁だと、あっけらかんと超緩和政策を停止して利上げを開始して、日本株が大暴落するかも。いずれ金融正常化が不可避なら、あれこれ言わず就任早々ばっさりやってしまえばと思ったりしている。