豊島逸夫の手帖

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国際金価格、1910ドル台まで急落

2023年6月23日

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22日のNY金市場で国際金価格(スポット)が1900ドル大台割れ近くまで急落した(KITCOグラフ緑線参照)。
要因はFRBの追加利上げに加えて欧州発のサプライズ利上げ。

22日にはまずイングランド銀行が0.5%という大幅な利上げに踏み切った。更にスイス国立銀行が利上げを決め、更なる利上げも示唆した。ノルウェーの中央銀行も利上げを決めた。同時進行的に米国議会ではパウエルFRB議長が追加利上げ2回の可能性に言及していた。既にECB、スウェーデン、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドも利上げを決めており、さながら世界の中央銀行が利上げ競争を演じるかの如き印象を市場には与えているのだ。
その仔細をロイターが利上げレースと題してグラフにしている。英文だがグラフは分かりやすい。

https://www.reuters.com/markets/asia/global-markets-view-asia-graphics-pix-2023-06-22/

どの国でもインフレがエネルギー価格下落などで一服したかと思えば、ここにきてぶり返し想定よりしつこい。特にサービス産業の人件費が下がり難いという状況に手を焼いている。パウエルFRB議長もサービス産業の価格動向に特化して、家賃までも取り除いた「スーパーコアインフレ指標」を重視しているほどだ。

とは言え、インフレがしつこいのであれば、インフレヘッジで金が買われるはず。確かに中期長期で金を購入している人たちはインフレを懸念して保有している。しかし短期的な先物市場への影響度はインフレ抑制のための利上げの方がサプライズ性も高い。インフレヘッジ需要はボディーブローの如くジワリ効き、利上げはワンツーパンチの威力がある。ゆえに短期的に急落しても金価格の上昇トレンドに変わりはない。更に利上げを続ければ副作用として不況、更に米国の銀行不安が悪化するのは必至だ。その時点で安全資産として金が買われ、金価格には上昇圧力がかかる。

なお、22日にはドル高も加速して円安が143円台にまで進行した。しかし今年の円安は昨年と異なる。
日銀からの「政策修正」のメッセージひとつで一気に外為市場のセンチメントが変わる可能性も秘めるからだ。植田総裁の口先介入が効くので市場介入という強硬手段は温存できる。

実際に昨年投機的円売り攻撃を仕掛けた国際通貨投機筋も、新日銀総裁の記者会見での「サプライズも」との発言ひとつで模様眺めを決め込んでいる。ここから一足飛びに145円超え、150円台乗せを積極的に狙う姿勢は見えない。

FRBの金融政策も中期的には景気後退、銀行不安が強まれば利下げへの転換も視野に入る。これはドル安、円高要因だ。因みにNY金高要因にもなる。
2022年の円安とは景色が異なることを見極めるべきであろう。

ところでタイタニック号残骸見物ツアー潜水艇事故の話題。
改めて水面下4000メートルの世界の厳しさを感じる。金関係者としては海底のそのまた1000メートル下の金鉱脈を採掘することなど無理筋だと連想してしまう。長期的に陸上の有望な金鉱脈が開発し尽くされれば、金生産がピークアウトすることは必至である。あとは二次的供給源のリサイクルに頼るしかない。金価格長期上昇トレンドは供給サイドから明らかなことだ。

2023年