2023年3月7日
首題の記事が本日の日経新聞朝刊に載っています。
まぁ私がロシア人だとしても資産をルーブルで持つのは嫌ですね。何とか外貨(含む金)を保有しようとするでしょう。ルーブルという通貨に対する信頼感はガタ落ちですから。中国で国民が人民元を信用せず、外貨(含む金)の割合を増やしたがることも同様です。
特にロシアの場合は、経済制裁により金でさえ自由に海外の主要金市場で売買できないのに、それでもやはり金が良いのですね。
筆者はWGC時代に色々各国の金事情を直接見てきましたが、金は経済制裁をすり抜けて国内に持ち込まれたり、国外で売却されたりすることが多いです。例えばドバイ-イラン-ロシアルートで中東の金最大中継基地ドバイ経由でかなりの量の金現物が流れることを目撃したことがあります。イランへの経済制裁の抜け道になっていました。更にイランとロシアの関係は近いですからね。たまたまドバイの金地金商を訪問していた時、ドカーンと地震みたいな揺れと音でたまげたのですが、現地の人たちは平然と「また2~3トンの金が中継基地を通ってゆくのさ」と語っていました。ドバイはカザフスタンなどの中央アジアから北アフリカまで膨大な金の商圏を持ちます。フィンランドとロシアの国境も見たことがありますが、東名高速道路の東京インターみたいにブースが並び、トラックが果断なく行き来していました(ウクライナ戦争前のことです)。金も経常的に持ち込まれたり、出荷されたりしていました。要はその気になれば、あれだけの国境を持つロシアの人たちが経済制裁網をかいくぐって金売買することは決して難しくはないのですよ。
今回ロシアの個人の地金・金貨の純購入量は25トンとWGCは発表していますが、私はそれより大規模だと確信しています。チューリッヒ経由もありますから。中期的にロシア・ドイツ・スイス・オーストリアで新たな金需要圏ができると思っています。中国・インドほどではないにせよ、少なくとも年間100~300トン程度の需要は見込めます。ドイツやオーストリアはまさに有事の金を信じる国民性があります。金ETFも買われます。
それからロシアは過去の危機のたびに推定2000トン規模の金をロシア中銀が欧米市場に売却して、外貨を調達してきた歴史があります。トイレットペーパーを輸入するために金を売却するなどと言われたものです。金の有難みをプーチン大統領はじめ、上層部は身をもって経験してきているのです。ですからモスクワの金保管金庫が大量売却で空になり、原油価格が上昇してロシアの国庫が潤沢になれば、まず金を買い戻して2000トン程度は有事の備えで保有することを繰り返してきたのです。ロシアは有力な金生産国ゆえ国内で金を付け替えることも可能です。
特にロシアの大金持ちの連中は経済制裁の対象になっていますが、独自のルートで金などを動かすことができます。
運びやすい金は神出鬼没なのです。
但し、このような金現物の流れを正確に量的に把握することなど不可能ですよ。結局世界の総需要と総供給の差で説明できない部分が非公式ルートによる金需要として統計的にはresidualとして処理されるわけです。