豊島逸夫の手帖

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NY金、1900ドル台に、国内現物小売価格も連日最高値更新

2023年3月14日

米銀行破綻の連鎖を不安視したマネーが米国債と金というふたつの「安全資産」を買い上げている。

米財務省とFRBの連携プレーで預金者は全額保護されるが、市場の警戒感は収まらない。ドル金利は僅か1週間で10年債が4%台から3.5%程度まで、2年債が5%台から4%まで暴落中だ。金利上昇が天敵である金にとっては追い風。しかもドル安という金にとっての追い風も吹く。

YouTubeでも語ったことだが、想定外の金融不安により来週に迫った3月FOMCでは0.25%「利下げ説」やQT減額説がいよいよ現実に飛び出してきた。これも金には追い風。

132円など円高に振れているので円建て金価格には下げ要因もあるが、ドル建て金価格の上昇ペースの方が速い(KITCOグラフ緑線)。明日のCPI(消費者物価指数)、明後日のPPT(生産者物価指数)が次の大きなマーケットイベントとなる。今日の日経平均は昼の時点で500円以上急落中だ。風雲急を告げる。

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さて、欧米市場では米銀行破綻の戦犯吊し上げが始まっている。今回破綻した銀行の監査法人である大手KPMGとベンチャーキャピタル(VC)だ。

まずKPMGがSVB監査結果を問題なしと発表した14日後に同銀行は破綻した。同監査法人はシグネチャー・バンクも担当。やはり監査後、特段の指摘もないまま11日後に同行は破綻した。どちらも2022年度の監査なのだが、それでもリスクについての言及程度はあって然るべきというわけだ。KPMGは顧客の機密保護義務により具体的事例についてコメントはできないが、一般論として監査後に起きたことについて責任は負いかねるとの声明を出している。更にKPMGは株価急落中のファースト・リパブリック・バンクも監査していた。

KPMGの視点ではどちらに転んでも負けの状況であった。監査結果で警告を発すれば、取り付けの引き金を引くか騒動をエスカレートさせたであろう。
今後金融監督当局の判断が注目される。

次の戦犯はVC。一部のVCがSVBから手を引くようにアドバイスしたと批判されている。増資計画にも乗らない方が賢明と忠告したことがSNSで瞬時に拡散され、取り付けも雪だるま式に増えてしまった。日本流に言えばメインバンクのように色々世話にもなったパートナーを裏切り、結果的に自らも大きな手傷を負うことになったというわけだ。

批判の的になったVCは「今のうちに預金を引き出しておけ」とも言えず、だからと言って「預金を動かすな」とも言い難い切羽詰まった状況であったと語る。取り付け騒動を煽動する意図はなく、ただ出遅れて最後に取り残されるリスクを指摘しただけと言う。

一方、今回はSVBの運用姿勢に問題があったわけで自業自得との見方もある。
SVB株を空売りして儲けたファンドマネージャーに言わせれば、そもそもリスクを抱えたSVBを様々な利害関係があるVCたちが寄ってたかっておもちゃにしていたということになる。自ら売りを誘発したようなものというわけだ。

今回のような破綻の連鎖を見るにつけ、マーケットは人間の欲と欲が裸でぶつかり合う因果な世界だと筆者はつくづく思う。野次馬で見物している分には、テレビのドラマを見るより遥かに生々しく、知的好奇心も刺激される。しかし現場にいた頃を思い出すと、自らの人生観まで刹那的になってしまう日々であった。それゆえあの世界の現場に二度と戻りたくはないとも思うのだ。

2023年