豊島逸夫の手帖

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雇用統計で壊れた米2年債市場、FRB対市場が正面衝突

2023年1月11日

今日は難解だが2023年金市場を左右する重大な問題について。FRBのドル金利予測が正しいのか、マーケットのドル金利予測が正しいのか。

正月明けで模様眺めだったNY市場だったが6日発表の雇用統計直後からいきなり対決モードに突入。マーケットではFRBに対する反旗が翻った。その戦場は政策金利に連動する傾向が強い米2年債市場。利回りが一気に20ベーシスポイント(bp)近く急落したのだ。一日の下げ幅としては異例だ。NY市場では「2年債市場がブロークン」と表現された。その後9日も2年債利回りは4.2%台に沈んだままだ。

そこで利上げ路線を突っ走る政策金利決定機関のFRBは間髪入れず一石を投じた。

雇用統計の賃金(平均時給)の上昇率が年4.2%へ鈍化したことを市場が重視したのに対して、政策金利はあくまで5%から5.5%まで引き上げる意図がFRB高官筋から改めて明示された。市場の反乱は徹底して抑え込む構えだ。そもそも賃金は最も頑固なインフレ要因ゆえ1回や2回の統計数字では確認できないとする。

失業率が3.5%と「最大雇用水準」で更に改善したことも4%半ばまでの悪化による労働市場鎮静化を見込むFRBはお気に召さないようだ。更に株価が反騰したことは0.75%連続利上げの荒療治でも市場環境への引き締め効果が足りないことを露わにした。異例の利上げ連発により米経済に多少なりともリセッション傾向が強まらないと、金融政策にラグがあるとは言えインフレ抑制仕事人FRBとしての面子も立たぬ。9日にはサンフランシスコ地区連銀デイリー総裁が米国経済紙主催のウェビナーで「我々は絶対的に米国経済を減速させねばならない」と断言した。かつては温和な元ハト派主導格の人物が「絶対的」とはかなり肩に力が入った発言と見た。そのうちに「株価が上昇するようでは困る」とでも言い出しかねない口調であった。
これほどまでにFRBが市場の見解を正面切って否定することは極めて珍しい。
その背景にはやはり2021年の段階でインフレを一過性と読んだ「痛恨の判断ミス」がトラウマとして残っている。

ほどなく利上げ停止、年後半は利下げを見込む市場とどちらが正しいのか。或いは最終的に両者はどのように折り合いを付けるのか。
それぞれの言い分に理があるだけにマーケットも「FRBを疑え派」と「FRBには逆らうな派」が真っ二つに割れている。
場合によってはこの論戦が年央まで続く可能性も否定できない。

まずは今週12日発表の米CPIに注目が集まる。概ね年率6%台への下落を見込むが「下落せずのサプライズ」にも市場は身構えている。
今後のCPI下落トレンドだが年率5%(コアで年率4%)から2%への下げが「胸突き八丁」と筆者は見ている。

NY金市場は利上げ不況によりFRBが年内にも利下げに転換する可能性を視野に1800ドル台後半の高い水準で推移している。昨年から引き続き不況のシグナルとされる逆イールド現象も金には追い風だ。株式市場は悲観論に溢れ、マネーが米国債と金に流入中だ。NY金の地合いはresilient(打たれ強く、しぶとい)。

円相場の方はやや膠着気味である。

2023年