豊島逸夫の手帖

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米債務上限、金市場の視点では「大事なし」

2023年5月24日

米国債と金は安全資産の代表格とされる。
しかし今回ばかりは米国債に債務不履行リスクがつきまとう。

ウォール街では今こそ金推奨の声が頻繁に聞こえてくる。
しかしNY金価格は2000ドルを突破して、一時は史上最高値に接近したものの、その後下げに転じ1900ドル台半ばで推移している。結果的に米債務上限リスクがいよいよこれからピークという時に金価格は下げたのだ。債務上限妥結ともなれば更に下押しの可能性もある。
NY金市場は米債務上限問題を囃したいところだが、所詮瀬戸際で最悪の事態は回避されることを読み切っている。既に米財政不安をテコに史上最高値更新寸前まで4回迫ったが、結局跳ね返された経緯もある。

なお、NY金価格下落の背景として米金融政策も重要である。
そもそも金は金利を生まないので利上げは天敵だ。そこでFOMCによる「利上げ打ち止め」観測を織り込んで買われたものの、ここにきて前提が崩れたことで見切り売りが出た。
具体的には利上げを6月は「一回休み」にするが、遅行するこれまでの利上げ効果を点検の上、必要なら7月に利上げ再開のシナリオがFRB高官発言で語られたことが効いている。ターミナルレートも6%の可能性が言及され始めた。万が一そうなれば円安150円のシナリオにもなる可能性をも秘める。

とは言え、足元のNY金価格は1900ドル台半ばで底入れの兆しも見える。
政策金利上昇や地銀規制強化の副作用である米国商業用不動産ローンの不良債権化リスクにより、次の地銀破綻の可能性がちらつくからだ。
既にオフィスビルの空室率はサンフランシスコ、ロサンゼルス、シカゴで2割を超え、マンハッタン、ワシントンは2割に接近中だ。ゼロ金利時代に地銀融資で建設されたオフィスビルが次回借り換えの時期には金利が5%を超え、しかもテナント需要はコロナ前の水準には戻ってこない。
商業用不動産ローンの市場規模は2.9兆ドルと過去10年で2倍に拡大しているので、サブプライム並みの損失の火種になりかねない。
ワシントンの派手な共和党、民主党の「プロレスごっこ」より、商業用不動産リスクの方が「要経過観察」である。

2023年