豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 最高値でも金を買いたがる日銀OBたち
Page3688

最高値でも金を買いたがる日銀OBたち

2023年328

筆者は日経電子版で独立系の立場から自由に株・外為・債券・商品の市場の表裏を説く一方で、金の専門家として金のブログを書き続けている。日経電子版コラムの特に若い読者から「あなたは金にも詳しいのですね」と言われ、思わず苦笑したりする。

そのような立場ゆえ何かと資産運用についてアドバイスを求められることが多い。
昨年は専ら円安について聞かれたが、今年は円建てで史上最高値を更新した金に関する話題が増えた。
そこで筆者が気になるのは、日銀出身の知り合いたちが、この高値でも「やたらに」金を買いたがることだ。退官して5年も過ぎると「通貨の番人」の顔から「個人投資家」の顔に変遷している。インフレの時代に入り、とにかく虎の子資産の目減りだけは避けたいとの思いが滲む。
「量的緩和でマネーが量産されるのを現場で見て来たので、円だけは必要以上に持ちたくない。何か刷れない価値を持つ投資媒体はないかとの発想で、絶対刷れない金現物に思い当たった。」のだそうだ。欧米銀行不安も「他人事ではない」と言い放つ。
マネー供給の現場出身の「通貨の番人」が、事もあろうに円より金を選好することに筆者は背筋が寒くなる。
財務省出身の知り合いたちも同様に金を買いたがる。気楽な居酒屋の席とは言え「日本はいずれジンバブエ並みになる」などととんでも本的なことを口走ったりする。「これからは金の時代だ」と面と向かって言われると、気楽な付き合いゆえ「アンタに言われたくない」と返してしまう。このような輩を相手に金の買い方指南などをする気はさらさら無い。

対して、若手の民間の後輩たちには懇切丁寧にレクチャーをする。30代そこそこなのに、既に老後の心配で「金もアリかな。でも怪しいかも」というノリで聞いてくる。氷河期世代ともなると、質問も「金が下がるとすれば、どこまで」という類が多い。バブル世代の「金はどこまで上がる」との質問との対比が鮮明だ。

このバブルの夢が忘れられない人たちは、最近再開された対人セミナーでも相変わらず会場内で「儲けるぞ」というフェロモンを強烈に発している。それが加齢臭となり、壇上の筆者のスーツに沁み込むのには閉口する。
それゆえ、筆者は普通の若手相手のセミナーにやりがいを感じている。YouTubeも始めた。セミナー会場には予備校の教室の如くサラサラとメモを取る音だけが聞こえ、「儲けるぞ」とのムンムン感は皆無に近い。将来に備えこつこつ積み立てる感覚に強く反応する人たちだ。
一般的に「金は世界経済を映す鏡」と言われる。
日銀OBからシングルマザーまで、今の社会の断面図を見る思いである。

今日の写真はお花見でのお稲荷さん。と言ってもこのお稲荷さんはそもそも筆者にとっては海外出張時の必需品。スーツケースに20個以上持ち込む。外国でフレンチのこってり系が続くとホテルの自室でお稲荷さんとインスタント味噌汁で何とか食いつなぐのだ。
ロンドン便で食事は要らないからお茶だけと頼むとCAが恐縮するのでお裾分けしてあげた。お返しにVIP用シャンペンが回ってきた(笑)。

3688.jpg

 

2023年