豊島逸夫の手帖

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どうなるクレディ・スイス、元スイス銀行トレーダーの視点

2023年3月16日

筆者はスイス銀行(SBC)の外国為替・貴金属部出身である。再びクレディ・スイスの問題が顕在化したので私見をまとめてみたい。

結論から言うとスイスにとって大き過ぎて潰せない。小国スイスの基幹産業は旅行と国際金融であり、大手銀行は実質的に国策銀行のようなものだ。破綻危機となればスイス国立銀行と金融監督担当の機関が絶対付きで救済に回る。既に実際に動きが出てきている。これまでの事例では、まずつれない態度で応じ、結局救済に回るという形をとった。しかし今回はアクションが速い。市場がシリコンバレー銀行(SVB)破綻の影響で信用不安が強まっている環境に置かれているタイミングゆえであろう。財務基盤も危機的とまでは言えない。
クレディ・スイスはアルケゴスなど、これまで数々の金融スキャンダルに関与してきたので、大リストラを発表してそのために新CEOもリクルートされた。まず大幅人員削減。更に行内では稼ぎ頭であったインベストメントバンキング部門にメスを入れている。儲けている部門は切り売りして、そもそもの得意分野である富裕層向け資産運用部門に経営資源を集中させる計画だ。

しかし、今回の一件で傷が深くなればUBSとの合併も視野に入る。スイスのナショナルフラッグの銀行というわけだが、チューリッヒ市場の地盤低下を考慮すれば現実的案かもしれない。そもそもスイスの銀行の歴史は合併の歴史であった。筆者が在籍したスイス銀行もドイツ語名はスイス合同銀行。それが更にUBSと合併して、今や3つの鍵の旧スイス銀行トレードマークがUBSのマークとして残る。両行の得意分野もUBSは引き受け部門、スイス銀行はトレーディング部門と補完的であった。

スイスは小国ゆえ国内ビジネスは極めて限定的だが実権はスイス国内の本社が握る。しかし国内派はデリバティブなどのインベストメントバンキング部門に関しては素人だ。その結果NYの同部門の独走が目立ち、高収益部門ゆえ傍観の姿勢を余儀なくされた。アルケゴスなどの金融スキャンダルに巻き込まれても懲りずにインベストメントバンキング部門は営業を続けた。しかしNY市場ではやはり米国系が地の利もあり有利だ。インベストメントバンキングリストでも米国系大手5社の次に辛うじて顔を出していた。アルケゴスの時にはスイス系と日本系が逃げ遅れ、他社に比し巨額損失を計上する結果になった。
既にこれまでに取り付け騒動の洗礼も受けている。特に海外の富裕層マネーが流出していることは痛い。大怪我の傷が癒えないのに新たな問題を背負うことになった。

今回はふたつの問題が市場の不安感を煽った。
まず、過去の財務報告の内部管理に「重大な弱点」があったとの発表。明らかに大型リストラにより社内のモチベーションが大幅に下がっている。
更に筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンク(SNB)が追加投資せずとの報道。切羽詰まって中東マネーに頼ったが結局資金ベースの脆弱性が露わになった。
いずれも致命的ともいえる現象だ。スイス当局がSVBのように引き受け手を入札で募集しても、おいそれと適当な相手が見つかるとも思えない。折から金融不安により他社のリスク管理は厳しくなっている。
筆者のチューリッヒの友人のコメントが印象的であった。「昔の日本では親が決めるお見合いと言う結婚形式があったと聞いているが、今どきのクレディ・スイスの場合も強制結婚の形式が考えられる。しかしお相手探しには相当に手こずりそうだ」。

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さて、NY金は依然強含み(KITCOグラフ緑線参照)。クレディ・スイス問題にも反応している。原油が60ドル台まで暴落したのでコモディティーセクターで原油から信用不安に強くリスク分散効果も見込める金にマネーがシフトしている。
ドル円はドル金利暴落でドル安=円高。この問題も含めて今朝70分ほどYouTubeライブをやった。
(第一部 クレディ・スイス、第二部 信用不安の市場への影響、第三部 ゴールドどうなる)

クレディスイス どうなる 元スイス銀行トレーダーの視点

2023年