豊島逸夫の手帖

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金最高値圏の背景、頭打ちの金生産量

2023年4月12日

長期的に金価格が右肩上がりと筆者が自信を持って言えるのは、供給サイドで一次的供給源の鉱山会社から新規の開発案件が殆ど出てこないからだ。勿論まだ埋蔵量はあるのだが、陸上なら自然環境が厳しくインフラ整備だけでも膨大なコストがかかる。海底には豊富な金鉱脈がいくらでもあるが、液体である原油とは異なり固体ゆえ噴出してくれない。しかも金鉱石1トンから抽出される純金たるや1グラムもあれば御の字だ。

それゆえ現存の金鉱山会社は良い鉱脈を持っているライバル企業の買収で「飯のタネ」を掴もうとする。合従連衡は金生産者の間で日常茶飯事だ。しかしこれは共食いであり、世界の金生産量は増えない。

残るは二次的供給源といわれるリサイクルだ。それゆえ日本でも近年は地方にリサイクルセンターを建設するプロジェクトが目立つ。
還流してくる金は高値圏での売り戻しで急増する傾向がある。それゆえ二次的供給源からの供給量が増えると相場の頭を打つ傾向がある。これも腐食しない金ならではの特徴だ。

但し、最近は世界の将来がリスクだらけという状況で、歴史的高値圏でも売らず、逆に買い増す動きも増えている。これは一昔前では考えられなかった現象だ。

さて、足元では米最大手の金鉱山会社ニューモントとオーストラリア金鉱山大手ニュークレスト・マイニングの合併が進行中で話題になっている。双方の株主の利益も絡むので交渉は長引いているが、サバイバル合戦でもあり、最終的には両社とも締結を目指す。

なお、世界の国別金生産量も世界各地に分散傾向が加速している。1970年代には南アが世界の生産量の7割以上を占めたが、その南アの金生産量たるや今や同じアフリカのガーナをも下回る。

最近の世界の年間金生産量は3500トン前後で長期的に頭打ちだ。主な生産国は中国、ロシア、オーストラリアで年間300トン台。世界一は中国。米国は200トンを割り込み193トン。あとは100トン台でインドネシア、ウズベキスタン、ペルー、メキシコ、カナダ、ガーナ、南アが並ぶ。中小金生産国の数は爆発的に増えた。金高値圏が続いているので世界各地で新たな金鉱脈が開発されたということだ。しかし総量はピークアウトしている。

さて、NY金の方は今日から重要な経済指標や発表が相次ぐ。
12日はCPI。13日はPPIと3月FOMC議事要旨。14日は米小売売上高。FRB高官発言ではシカゴ地区連銀総裁が利上げ慎重論を唱えるなど、FRB内部に亀裂が目立ち始めた。これは波乱要因だ。

2023年