豊島逸夫の手帖

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有名人も大損したAT1債とは

2023年4月18日

有名人がAT1債を保有していて大損したとの告白から、一般メディアでもクレディ・スイス発行のAT1債って何だという記事が載るようになった。

そもそもAT1債(別名COCO債)とは、リーマンショック時に大手銀行が破綻して結局納税者のおカネを使って公的救済せざるを得なかった苦い体験から生み出された投資商品だ。考え方としては銀行が破綻したらまず株券が紙くずとなり株式保有者が損失を負う。次に銀行が発行した社債などの債券の保有者が損失を被る。納税者が銀行破綻による損失を補填する羽目になることは極力避けるべしということであった。

ところが今回のUBSによるクレディ・スイス救済買収(破綻ではない)では、まず損失を負うべきクレディ・スイス株主が一定比率でUBSの株式と交換できることでかなり損失を免れた。

その代わりクレディ・スイス発行の社債でAT1債と呼ばれる特殊な債券の保有者は全損、つまり保有社債の価値がゼロになってしまった。

これでは順番が逆だろうとAT1債保有者たちが怒りを露わにした。実はこの特殊債券には価値がゼロになる場合について予め明記されていたのだが、殆どの保有者はあのクレディ・スイスが無くなるということなど想像だにしていなかった。
それでも債券保有者の怒りは収まらない。今後集団訴訟なども考えられるが残念ながら後の祭りとなろう。

そもそもAT1債が爆発的に売れたのは通常の社債より利回りが高かったからだ。例えばクレディ・スイスのAT1債は一例だが年率9.5%の高リターンであった。しかしハイリターンなら当然ハイリスク。旨い話には裏がある。AT1債の場合には発行体が破綻などで無くなれば、順番として普通の社債保有者より先に損失を被るのだ。とは言え通常は最初に損失を被るのは株主であり、債券保有者はその次となる。この順番がクレディ・スイスの場合は逆になったので、機関投資家の一部でさえ全損処理(まるごと大損)を強いられた。

なお、欧州や日本の大手銀行が競ってAT1債を発行したのには理由がある。リーマンショックの教訓で銀行は手厚い自己資本を保有することが決められた。AT1債はその自己資本にカウントされるのだ。大手銀行にとっては相対的に安い金利で自己資本を増やせる便利な手段となったわけだ。クレディ・スイスの一件後にも日本のメガ銀行はAT1債の発行を目論んでいる。
かくして発行体の銀行とゼロ金利時代に運用難に陥っていた投資家の間で、それぞれがメリットを享受できる人気商品となった。

今回は日本でも三菱UFJモルガンスタンレー証券が950億円を主として富裕層に販売していた。そこで有名人の名前が飛び出したわけだ。

この事例は騙したとか騙されたという話ではない。
儲けたい富裕層の欲と自己資本を増やしたい大手銀行のニーズが一致したところで証券会社が販売役となったのだ。

投資家への教訓としては江戸時代創立の老舗スイス大手金融機関でも信用が大きく毀損する可能性があるということ。少しでも通常より利回りが良ければ必ず裏にその理由があること。

なお、ワールド・ゴールド・カウンシルが日本で現物金を購入した人たちの調査を行ったところ、金を買う理由として断トツの一位が「紙くずにならない」という答えであった。筆者が在任中には毎年この調査を行ったのだが、毎回一位は大差でこの理由であった。

さて、今日の写真は子犬にデレデレの私(笑)。
基本的に猫派なのだが犬もかわいいねぇ~~。

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たまたま我が家を訪問してくれたワンちゃんたちにはまりそうだよ。
よく見ると私に抱かれたワンちゃんが必死にもがいている感じはあるけど(笑)。

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2023年