豊島逸夫の手帖

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突然の米国債格下げ、金価格への影響は

2023年8月2日

大手格付け会社フィッチ・レーティングスは1日、米国債格付けをトリプルAからダブルAプラスに引き下げた。今後3年間で予想される財政悪化や債務上限問題を巡る政治の理由を挙げている。しかし唐突な動きで不可解である。
この突然の米国債格下げのニュースに時間外のNY市場は唖然として、さすがの短期投機筋も消化しかねている。米国債市場の地合いとしては2日に8~10月の米国債の新規発行額が発表されるので、ドル金利には上昇圧力がかかりやすい。債務上限問題により凍結されていた国債発行が一気に出て、幅広い年限での発行増となりそうだ。
今週は雇用統計が発表されるが、雇用増が20万人を超えると労働市場の過熱が意識され金利上昇を誘発しやすい。1日に発表された6月の雇用動態調査(JOLTS)では、求人件数が958万件と前月比で減ったものの基本的には高止まりであった。
なお、米国債市場の流動性はダントツであり、安全性を求めるマネーが安全資産として米国債を購入する傾向は変わるまい。911同時多発テロの時も真っ先に再開したのは米国債市場であった。
更に円も安全通貨神話が崩れた。スイスフランは市場規模が小さ過ぎる。
そして金だが前回の米国債格下げ時には急騰を演じたので今回も上げの要因となろう。安全資産のライバルである米国債がオウンゴールで金チームが得点という成り行きだ。
中期的展開としては他の格付け会社の動きが注目されよう。格付け業界も独自の複雑性があるのでライバル機関が即追随することはなさそうだ。米国財政問題は重大だが債務上限問題が暫時妥結した後なので切迫感に欠ける。
但し、米国大統領選を控え政治的要因が読み切れないので潜在的サプライズ性は無視できない。
金市場を見る上では年末にかけ金融政策動向に加え、財政問題にも目配りする複眼構造が必要となろう。特に格下げによる「悪い金利上昇」と米国経済活性化による「良い金利上昇」を見極める必要があろう。
長期的には米ドル通貨覇権に対抗する中国やロシアという「対決の構図」は変わらない。とは言え中国は日本に次ぐ米国債保有大国なので米国債が通貨戦争の武器にもなるのだが、中国が米国債を大量に売却すればドル金利急騰で中国も大損を被ることになる。
そして米国債を保有する「セイホ」「GPIF」の出方もNY市場では注目されよう。
このような状況では米ドルを回避して公的金購入が加速するキッカケにもなろう。

さて、今日の写真は農園レストラン「アグリスケープ」で新鮮な野菜に囲まれ、黒豚を見学してご機嫌の筆者(笑)。

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2023年