豊島逸夫の手帖

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米債券市場、流動性が蒸発

2023年3月17日

日本時間16日午後10時15分。ECBラガルド総裁「利上げ0.5%」の一言で市場の潮目が変わった。
第一報は大西洋を渡り、NY市場へ瞬間的に伝播。特に最近値動きの激しい債券市場が今回も強く反応した。

2年債利回りはラガルド総裁による発表前に0.25%予測が強く、4.0%台から3.8%台へ急落していた。しかし利上げ幅0.5%と発表されるや瞬時に反騰を開始。2時間後には4.2%台に乗せた。24時間グラフで見るとECB発表直前を下値にV字型の形状になる。

この事例は極めて示唆的だ。
まず、数時間単位で20ベーシスポイント(bp)近く変動することが常態化している。2年債の直近の流れを見ても8日のパウエルFRB議長の議会証言の後には5%を超えていたので、短期間で100ベーシスポイント(bp)以上急落したことになる。異常だ。これは米国債市場でオファーとビッドの差が広がり、なかなか売買が成立しない状況を映す。世界で断トツの流動性を誇る米債券市場は911同時多発テロの時も真っ先に売買を再開した。それが今回は市場参加者が信用不安に起因する恐怖感で委縮している。更にここぞとばかり超短期売買を繰り返すCTA(コモディティートレーディングアドバイザー)が格好の草刈り場と見て暴れている。

更に、投資商品として売買されるフェデラルファンド(FF)金利先物の値も乱高下している。この投資商品の価格動向が「市場の政策金利予測値」として引き合いに出される。直近ではターミナルレート予測値がSVB破綻前の5%台半ばからほぼ1%下がり、4%台後半に落ちてきた。短期に1%相当の下げは「暴落」と言える。

これが年内利上げから利下げへ転換観測の根拠になっている。
しかし投機筋の売買で形成されるFF先物金利を金融政策金利に関する議論でそのまま引用してよいものだろうか。あくまで参考数値として見るべきであろう。

今は3月FOMC直前のブラックアウト期間なのでFOMC参加者の見解は一切伝わってこない。その間市場は先走り、年内利下げ観測が強まったとされる。しかし前回のFOMCでも市場とFRBの見解の差が話題になったが、結局市場側が屈する結果となっている。

ECB0.5%利上げ強行も市場にとってはサプライズであった。
果たして3月FOMCではパウエル議長がラガルド総裁と同じくインフレ抑制を重視して利上げを見送らず強行するのか。市場予測では0.25%予測が70%を超え、利上げ見送りが30%未満となっているが日々クルクル変わっている。クレディ・スイス問題浮上の時点では利上げ見送り予測が6割以上に達していた。筆者は市場の予測を気配値程度に見ている。

なお、量的緩和再開説も流れるが、これには昨年の英国年金による英国債投げ売りの時にイングランド銀行が時限措置として英国債を買い受け「量的緩和再開」と囃された事例の連想も働いている。量的引き締め(QT)減額はあり得るが、量的緩和(QE)再開のような劇的政策変更となると新たに大きな信用不安勃発が前提となろう。

金市場の視点では、来週のFOMCでパウエル議長が年内利下げや量的緩和再開を否定しなければ、これはNY金が2000ドルを突破するキッカケとなろう。
足元では今日も円建て現物小売価格が最高値更新。高止まり傾向。

なお、今朝テレビ朝日の「グッド!モーニング」でクレディ・スイス問題について話した。

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それから、明日土曜日の朝9時に「今週振り返り、来週FOMCを見据える」YouTubeライブ配信予定。時刻に変更あればツイッター@jefftoshimaで告知します。

2023年