豊島逸夫の手帖

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米銀行危機、収まらず、金価格の下支えに

2023年4月27日

米地銀ファースト・リパブリック・バンクは預金の4割が流出していた。他の地銀に比し桁違いのマネー流出だ。株価も一昨日が49%安、昨日は30%安。大荒れ相場を冷やすため、NY証券取引所は昨日日中に10回も同銀行株取引一時停止したほど。政府は救済を当てにするなと発言。民間大手銀行の支援にすがるか。しかし話は容易にまとまらず先が見えない。

国際金価格は引き続き2000ドル攻防。強い売りも浴びているのだが、歴史的高値圏を維持しているのは銀行不安第二波が要因。昨日述べた米財政不安も効いている。更に5月3日のFOMCが注目材料だ。

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(以下は中級編)
FRBパウエル議長にとっては、5月FOMC直前という何とも間が悪いタイミングでファースト・リパブリック・バンク危機が表面化した。事前想定通りに利上げを決定すれば、市場の安定よりインフレ重視かとの誹りを受けかねない。

かと言って市場の危機感を鎮めるために今回利上げを見送れば、FRBは我々が知らない何かを把握しているのではないかと市場が疑心暗鬼を募らせる可能性がある。

更にウォール街が危惧するのは金融不安が地銀に限定されるかという問題だ。叩けば埃が出るリスクを欧州市場で予告編の如く見せつけられてきたからだ。

まず昨年財政不安に端を発する英国債投げ売りが生じた時、英国年金基金がデリバティブにレバレッジをかけて投資していたことが発覚。
更にクレディ・スイスが英金融会社グリーンシル・キャピタル経由でサプライチェーンファイナンスという新商法に出資して巨額の損失を計上したことが、結局同銀行の命取りのひとつとなった件。

一般的にプライベートキャピタルと言われる金融会社は、銀行ライセンスを持たず金融規制も相対的に緩い。
プライベートキャピタルの顧客投資家は数年単位で出資するので「預金取り付け騒動」は起きない。最終的投資先はサプライチェーンファイナンスの如きリスキーな分野に及びがちだ。ゼロ金利時代には画期的新ビジネスと持て囃されたが、金利上昇とともに化けの皮が剥がれる事例が未だ市場のどこかに埋もれているやもしれぬ。疑心暗鬼になりやすい地合いと言える。

今回の米国銀行不安は破綻という第一波からその後遺症とも言えるクレジットクランチ(信用収縮)という第二波に移行しつつある。市場の流動性が縮小するとバフェット氏の名言のとおり「誰が裸で泳いでいたか露わになる」ことになる。

現時点ではFRBも含め金融監督部門がその「誰か」を正確には特定できていない。リスクが見えない状況は市場が最も嫌うところだ。

このような市場環境でFOMCでは利上げが議論される。恒例の記者会見では金融不安と利上げの関連について質問が集中しそうだ。
最近は「即興の達人」と揶揄されるパウエル氏の受け答えが思わぬ市場の反応を誘発するリスクには要注意だ。

2023年