豊島逸夫の手帖

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FRB高官、市場の先走りに警鐘

2023年12月19日

昨日の続編である。
昨晩はシカゴ連銀グールズビー総裁が米国CNBCに生出演して語った。
曰く「FOMCは利下げを討論する場ではない。参加者たちが金融市場関連のデータに基づき、個人的金利予測をドットチャートに書き込み、今回の会合で利上げするか否かを投票で決める場だ。市場は先取りして2024年に1.25%も利下げすると織り込んでいるようだが、そもそも市場は自分たちに都合の良い部分だけを抜き出して囃し立てる傾向がある。」
クリーブランド連銀メスター総裁もFTとのインタビューで昨日記したNY連銀ウイリアムズ総裁の発言と同様の趣旨を述べた。
先走りする市場に強烈なパンチを浴びせた形だが、市場側もめげず、インフレが明らかに終息に向かっている中で、2024年は利下げの年となるとの見方を変えていない。

ドル建て金価格は既にNY市場がクリスマスモードで取引も薄い時期なので大きくは動かない。
それでもFRB内部の亀裂が露見したことやFRB対市場の対決の構図は変わらず来年に持ち越されよう。

なお、本日は日銀金融政策決定会合の日。
今回NY市場もなぜ日銀に注目するのか。以下にまとめた。
日銀が仮にマイナス金利解除に動いても0.1%利上げ程度の効果に過ぎない。対してFRBに関しては2024年に1.25%程度の利下げの可能性を市場が先取りして動いている。
10bp対125bpのインパクトの差は大きい。
そもそも「マイナス金利」は「絶滅危惧種」と揶揄されるほどで、普段日銀に注目していないNY市場の人たちの間では「まだ極東で生息していたのか」と改めて驚きの声さえ上がる。日本株デスクなどの親日派を除き、ウォール街一般の日銀の認知度はその程度のレベルだ。

それでもNY市場が今回の金融決定政策会合に注目するのは、日本市場の金利なき世界が正常化に動けば、日本の大手機関投資家が保有米国債を売り処分する所謂「レパトリ」を誘発するからだ。ヘッジコストが高いので、既にレパトリは現実化しており、米10年債利回りが一時5%を突破した時は米国債格下げ懸念とともに「ジャパンファクター」が金利上昇要因として語られた。
時間外の日本時間帯での米国債先物取引の動きが当日のNY債券市場に直接的影響を与えることも珍しくない。

マクロ視点ではFRBがQTを通じて米国債保有を減らす中で、国別米国債保有(除く米国)ランキングでは日本が中国を抜き世界最大となった。2023年9月時点での国別米国債保有額は日本が1兆877億ドルで、2位の中国7781億ドルを大きく引き離している。とは言え同8月時点では1兆1162億ドルだったので、日本勢の米国債売却は既に進行している。

それでも米国債市場の流動性は圧倒的に大きく、いつでも売り手と買い手がいることは魅力だ。地政学的リスクが顕在化するとマネーが「質への逃避」で安全資産としての米国債に流れると言われるが、筆者に言わせれば「流動性への逃避」だ。911NY同時テロ事件の直後、真っ先に復旧して売買を再開したのが米国債市場であった。リーマンショックの時には売り逃げたくても買い手がつかず、生殺しの如き経験を味わった当時のトレーダーは未だに売りたい時に買い手がいるありがたみを肌で感じている。

更に米国債の3%を超す利回りも魅力的だ。
それゆえ長期的には米国債が外貨準備などで購入・保有される傾向は変わらないであろう。日本の米国債保有額も日銀の金融正常化が後手に回るようであれば再び増える可能性もあろう。

イエレン財務長官の立場では日本は大事なお客様なはずだ。円安進行時に日本の為替介入を容認したのもカスタマーサービスとして当然のこと。日本を為替監視国に指定するなど互恵の論理からしても論外と筆者はNY市場の知人たちに説いている。

なお、明日BSテレ東の日経ニュースプラス9に生出演して日銀会合について語る予定。出番は9時半くらいかな。これは日経電子版の筆者コラムに連動した企画である。金専門家としてではなく、マクロ経済論者としての持論を語るゆえ金への言及はない。

2023年