豊島逸夫の手帖

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NY金、いきなり2000ドル再接近

2023年11月17日

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NY金が1980ドルを超えてきた(KITCOグラフ緑線参照)。その背景を詳説する。

今週はCPIがインフレ減速感を印象付け、NY市場も米経済軟着陸論に傾いた。本欄11月15日付けではFRBハト派の代表格であるサンフランシスコ連銀デイリー総裁がCPI祭りにどのような反応をするか注視したいと記した。

その疑問に答えるようにFTがデイリー氏にインタビューしてくれた。案の定FRBハト派でさえ追加利上げの可能性を否定しなかった。早急に対インフレ勝利宣言を出してはFRBの信頼性を損ねるリスクがあると明言した。特に1年のインフレ期待指数に注目しているとのことだ。NY連銀が発表している経済統計だが、直近は3.6%で推移しており、大きな変化は見られない。

更に、タカ派の代表格であるクリーブランド連銀メスター総裁も当然の如く市場の高揚感に水を浴びせた。「最新のCPIデータはディスインフレ進捗の面で評価するが、もっと多くの(much more)データを見る必要があろう。インフレとの闘いに視界が開けたと言える状況ではない。市場は市場、FRBはFRBで見解は異なる。」

とは言え、16日のNY市場では不況を予感させる経済指標発表が相次いだ。
解雇数を示す新規失業保険申請件数が事前予測の218,000件を上回り231,000件と増えた。鉱工業生産指数は0.3%増予測に対して0.6%下落。NAHB(全米住宅建設業者協会)住宅市場指数は予測が40、発表値は34と大幅下振れ。しかも米国需要減少観測でWTI原油先物は73ドルまで売り込まれた。

1年半以上のタイムラグで影響が顕在化するとされる金融政策が、やはり今頃効いてきたのかと思わせる如き展開だ。

このような市場環境で24年5月までに利下げ転換の確率が67%まで上昇している。CPI発表前までは利下げ転換は早くても24年7-9月期と見られていたので、CPI祭りの余韻は明らかに残っている。

なお、FRBの金融政策に大きな影響を与えているが、FRBが制御できない要因としての米財政政策問題、特に米国債増発の影響も市場にとっては判断が悩ましい。ムーディーズが米国の信用格付け見通しを「ネガティブ(弱含み)」としたことにイエレン財務長官は「私は同意できない」と強く反論している。曰く「米国債は依然として世界でも傑出した安全で流動性の高い資産だ」。筆者は米国債に逃げ込むマネーの動きは「質への逃避」ではなく「流動性への逃避」だと見ている。米国債なら安全とは言い難いが、あの911同時多発テロ直後に最初に取引が再開されたのが米国債市場であった。ダントツの流動性のおかげでいつでも売り買いできる。これは他に比類なき魅力だ。但し長期債保有となるとタームプレミアム(期間が長い債券の保有者が要求するプレミアム)が頻繁に変動するので「安定した質への逃避」とは言い難い面がある。10年債利回りも5%を突破した後4.4%まで急落している。それゆえ市場は財務省の米国債発行計画に目を光らせる。本来ならば短期債から長期債まで計画通りに発行すべきところだが、長期債発行を予定より減らしたりすると途端に米国債不安が材料視される。その結果ドル金利が乱高下すれば、その影響は直ちに金市場に及ぶ。

市場の視界不良の中であのバフェット氏でさえ株式保有を減らし、現金ポジションを膨らませている。同氏は金嫌いだが、現金より金を選好するファンドも多い。直近でドル建て金価格が下落する過程では「値固め」と表現してきたが、そろそろ値固めが終わり、次の上を狙う流れと思われる。
但し、これからクリスマスまでは実質的に大きなポジションはとらないので、クリスマス明け(実質24年相場入り)に動きそうだ。

2023年