2023年7月31日
今回の日銀政策修正に対する市場の荒い反応について、1997年に当時の橋本首相が訪米した際の現地発言を受けてNY市場が混乱したことをNY市場ベテランの一人が過去の事例として挙げていた。
NYタイズムは当日の模様を「日本は米国債を売り、金を買いたい衝動に駆られることがあるかもしれないとの橋本首相のコメントにより、ダウ平均はブラックマンデー以来最大級の下げを記録した。日本政府はその後同発言を否定している。」とまとめている。
この問題発言は1997年6月23日、米コロンビア大学での講演後の質疑応答で飛び出した。
質問者「日本や日本の投資家にとって、米国債を保有し続けることは損失を被る事にならないか。」
橋本首相「ここに連邦準備制度理事会やニューヨーク連銀の関係者はいないでしょうね。実は何回か財務省証券を大幅に売りたいという誘惑に駆られたことがある。ミッキー・カンター氏(元通商代表)とやりあった時や米国の皆さんが国際基軸通貨としての価値にあまり関心がなかった時だ。(米国債保有は)確かに資金の面では得な選択ではない。寧ろ証券を売却して金により外貨を準備する選択肢もあった。しかし仮に日本政府が一度に放出したら米国経済への影響は大きなものにならないか。
財務省証券で外貨を準備している国がいくつもある。それらの国々は相対的にドルが下落しても保有し続けているので、米国経済は支えられている部分があった。これが意外に認識されていない。
我々が財務省証券を売って金に切り替える誘惑に負けないよう、アメリカからも為替の安定を保つための協力をしていただきたい。」
冒頭発言で軽いジョークのニュアンスは伝わるが、筆者は正論と思い発言記録をアーカイブに保存したものだ。
現在でも日本は世界一の米国債保有国で二位の中国を上回る。
米財務省データによれば2023年5月時点で日本が1兆968億ドル。中国が8467億ドルだ。
米債券市場では日本の「セイホ」など機関投資家の米国債売買状況が常にウォッチされている。時間外の「日本時間帯」でも米国債利回りが変動することも珍しくない。その事例を丁寧にまとめたレポートを米大手投資銀行の債券アナリストが発表したこともある。それゆえ今回のような日銀政策修正があれば当然米国債市場は敏感に反応してドル金利は動く。特に市場は橋本発言の時と変わらず真相が読めず乱高下しがちだ。
今回も植田発言とその真意を正確に読み切れずドル相場や株価が大きく変動している。
筆者は日本が最大の米国債保有国であることを対米通貨外交において明確に主張すべきと考える。米国側は日本を為替監視国と指定することもあるのだから日本側も忖度せず論じるべきだ。橋本発言を「恫喝」と報じた外電もあったが冷静に且つスマートに現状認識を共有すべきであろう。
バイデン政権の財政大盤振る舞いの一部を日本国民が負担していることは事実なのだ。
今後植田日銀が金融正常化への道を歩む過程で日本市場を見る米国市場の眼は明らかに変わった。「債権国」としての日本の立ち位置もこれまでより認識されてゆくであろう。
さて、週末は再び札幌郊外農園レストランのアグリスケープに。
今日の写真は農園の様子。広大な敷地にさまざまな野菜、シェフのハーブ、豚、鶏を飼育。種から選んで育てた野菜や抗生物質やホルモン剤を使用せず飼育した鶏(プレノワール)や黒豚。素材の採れたて、捌きたてを提供する。ここまで徹底した素材にも恵まれ、吉田夏織シェフは持ち前の料理センスで自然を細やかに味わえるメニューを提供しているので何回行っても飽きない。