豊島逸夫の手帖

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国内金小売価格1万円超え

2023年8月29日

金の世界に身を置いて半世紀、まさかこの日が来ようとは思わなかった。税込みとは言え金現物1グラムの小売価格が1万円を超えるとは。

もちろん円安要因が強いが、ドル建て金価格も歴史的なFRB利上げという逆風にも関わらず、1900ドル台の歴史的高値圏に留まっていることも重要だ。ドル金利高により外為市場では当然ドル高(円安)傾向が強い。しかしドル高ならNY金安というのがこれまでの市況の法則であった。金はドルの代替通貨とされるからだ。
然るに今回はドル高でもドル建て金高という現象が昨年来続いている。なぜか。

外為市場では金利差でドル高なれど中長期的に金現物を保有する長期投資家、中央銀行、年金基金などはドルへの信認が薄れていることを懸念している。ドル高ドル安は当日のヘッジファンドなど投機筋のドル売買で決まる面が強いがドル不安は構造的な問題だ。日々のドル安ドル高とは異次元の世界である。ドル高なれどドル不安。このポイントが重要だ。

ゆえに金現物1グラム1万円は決して単なる偶然ではない。
根は深い。金を買うことは米ドルへ不信任票を投じることにもなるのだ。それゆえ日本政府、日銀は外貨準備としてドルを減らし、金を増やす世界的傾向から距離を置く。米国への配慮、忖度とでも言えようか。中国が外貨準備の中の米国債を減らし、無国籍通貨=金を増やしていることとの対比が鮮明だ。

さて、金現物1グラム1万円で売りか買いか。
金の長期保有者で当面現金のニーズがなければ買い持ち。コツコツ積立感覚で買い増すもよし。住宅購入や教育費など特に出費が必要なら売って支払いに充てればよい。夫がリストラでクビになったとか、家庭内有事に直面していれば、まさに「有事」に際し金を売って凌ぐという金本来のヘッジという役割を果たしてもらうことになろう。

なお、本日朝日新聞朝刊5面に筆者の金に関する寄稿文が掲載されている。

2023年