豊島逸夫の手帖

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新NISAについて注意

2023年12月27日

新NISAは長期資産形成としてとても良くできていると思う。
但し、それを利用する側の覚悟とリスク耐性が何とも覚束ない。
NISAは儲かれば税制面で優遇される。つまり長期で儲かることが前提だ。しかし儲かる保証は全くない。
よく引き合いに出されるのが、日経平均の過去40年などの長期グラフだ。
リーマンショックの時に凹んでいるが、その後上昇基調にある。それは日本経済成長を素直に映した上昇基調だったか。読者諸兄にはその実感は希薄だと思う。

結論から言えば、アベノミクスで日銀が「異次元」量的緩和の政策のもと、無制限におカネをばら撒いたからだ。これで名目的株価が上がらない方がおかしい。

問題はこれからの新NISAの期間、例えば10、20、30年の間に日銀はこの巨額のマネーばら撒きをやめ、市中からマネーを回収せねばならないことだ。これを日銀は正常化とか出口とかと言う。
しかし、おカネを入れるは易し、出すは難し。日銀が出口に真剣に向かえば民間経済の感覚としては点滴を外される患者の如きショックを受けよう。まず日経平均は「日銀、本格出口に動く」の見出しだけで大暴落するであろう。

果たしてこの大規模量的緩和が抱えるリスクを理解しているのか。理解したとして覚悟はできているのか。そして日銀がうまく危機から脱出できる方策があるのか。私には見えない。日銀も見えていない(だから日銀OBが金を買いたがるのだ)。しかも日銀は日経平均が下がった日は、その日の午後2時に買い支えに入る、救いの神の役割も演じてきた。お上が救済する中国の上海市場のレベルだ。その結果今や日銀が筆頭株主という企業が続出している。世界的にも日銀だけのカスタマーサービスだ。欧米では中央銀行の株購入は「禁じ手」とされている。

更に心配なのは日本人のリスク耐性の低さだ。このブログの読者諸兄であれば問題ないが、あなた方は全体から見ればほんの数パーセント。他の日本人の多くはいくら長期投資と説得されて始めても、今日買った株が明日急落すると目の前が真っ白になるのだ。理屈で長期だからと納得しようとしても、やっぱり投資は怖いとすくんでしまう。こればっかりはセミナーで教えられるものではない。痛い目にあってカラダの体感を強化するしかない。具体的には胆力を鍛えることだ。
日本人のリスク耐性の弱さは民族的特性だ。例えば米国人や中国人はリスク耐性が強い。

この日本で貯蓄から投資への流れは将来的に必須で日本経済の今後を決める大きな要件だ。だからNISAも冒頭に記した如く絶対必要なのだ。
しかし、一般メディアではどこの手数料が安いとか高いとかオトクなのはどれかなどそのレベルの話に終始している。
NISAで集めたマネーを運用して長期に亘り益を出すことがどれだけ大変なことか。深読みすれば政府としてその痛い点には触れず、国民にばら撒いた量的緩和マネーをNISAを通じて回収する気なのか疑ってしまう。
結果は10年以内に露呈する。

純金積立だって最初の10年は金価格が下がることが多かった。20、30年経ってグラム1万円の世界に入った。
純金積立とNISAの最大の違いは、一万円札は無限に刷れるが金は絶対に刷れない独自の希少価値を持つことだ。
年末年始に頭を冷やして考えてみて欲しい。
それでは良いお年を。

2023年