豊島逸夫の手帖

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政策金利6%説も、尾を引く1月雇用統計ショック

2023年3月3日

新規雇用が50万人を超え、失業率は過去最低水準の3.4%を記録して、ウォール街のほぼ全員が唖然とした1月雇用統計の記憶が鮮明に残る状況で、3月10日に2月雇用統計が発表される。3月相場入りしたNY市場も、とにかく雇用統計を消化しなくてはまともなポジションを取ること能わずという実態だ。しかも2月に発表されたCPI(米消費者物価指数)、PPI(米生産者物価指数)、PCE(米個人消費支出)の主要インフレ指標は全て「上昇」或いは「下落速度が鈍化」を示した。

そこで2月雇用統計に、例えば新規雇用は30万人超、失業率は3.5%などの強い数字が並べば、ターミナルレート予測6%水準が真剣に議論される可能性がある。既に市場では28日にバンク・オブ・アメリカ(BofA)が6%予測を公表した。根強い個人消費とタイトな労働市場により想定より底堅い米国経済が要因として挙げられている。副作用としての厳しい景気後退も覚悟のシナリオだ。引き締めリスクより引き締め不足のリスクを重視するFRBの政策スタンスも効いている。振り返れば、年初には楽観的な経済軟着陸説(ソフトランディング)が語られ、その後無着陸説(インフレ長期化と打たれ強い経済の同時進行)に代わり、そして今や激突説(ハードランディング)が再び台頭してきた。

なお、市場で6%説を唱えるのはBofAだけではない。中国経済再開と欧州経済好調見通しも米インフレ要因として無視できない状況だ。

一方、FRB高官のターミナルレート予測は昨年12月時点のドットチャートでは5~5.25%予測にほぼ収れんしていたが、その後5.50~5.75%まで切り上がってきたようだ。これは3月以降のFOMCで計0.75%の追加利上げが行われることを示唆している。3月0.5%、5月0.25%か、3、5、6月にそれぞれ0.25%か。9日にはアトランタ連銀ボスティック総裁が3月利上げは0.25%に抑えるべしとの慎重論を説き、NY株式市場では「ハト派的発言」として歓迎された。いずれにせよ3月発表の雇用統計とCPIを見ないことには事前予測さえ出しかねる状況だ。

この1月雇用統計サプライズに発する利上げ上方修正論争は、アカデミックの世界にも波及。
利上げ慎重派(ハト派)の代表格とされるノーベル経済学者スティグリッツ教授が「今回ばかりはラリーの意見に賛成せねばならない」と語り話題になっている。ラリーとはタカ派代表格のラリー・サマーズ元財務長官のこと。筋金入りのタカ派で常にスティグリッツ氏と比較されてきた。雇用統計サプライズはノーベル経済学者まで翻弄したのだ。

このように混とんとした市場環境ゆえNY市場において3月10日までは模様眺めが圧倒的多数を占めるのだ。短期投機的売買が日々のボラティリティーを高める構図である。

この利上げ論争が年前半は続き市場を覆う視界不良感は消えないと筆者は見ている。パウエル議長が最も重視するスーパーコアと言われる徹底したサービス業重視のインフレ指標は下方硬直性が強いからだ。
多くのファンドは当面年率4~5%の短期米国債購入などで取りあえず繋ぐ運用を強いられよう。

日本人にとって気になる円安も昨年とは異なり国際通貨投機筋が円売り持ちには慎重だ。雇用統計で一夜にして市場の景色が変わるリスクがあるからだ。「植田日銀が読めない」、「深追いはしない」。投機筋の呟きに昨年のような円売りモメンタム(勢い)は感じられない。

国際金価格も例外ではない。3月10日に要注意だ。

さて、今日の写真は渋谷駅地下の「サザエ」店頭。ズラッと女性の列に男一人並ぶ(笑)。大判焼き、オハギ、草餅、桜餅を買った。ここの実演販売のタイ焼きは凝り過ぎていて私の好みではない。札幌駅前エスタのオリジナルの普通の鯛焼きこそ「サザエ」の原点だ。そこではシンプルな鯛焼きのみ。

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2023年