豊島逸夫の手帖

2023年12月18日

１２月１５日のこと。米経済テレビで１２月ＦＯＭＣが終わってから初のＦＲＢ高官発言があるというので見守っていた。
発言者はＮＹ連銀ウイリアムズ総裁。大物である。
それがいきなり爆弾発言。
「ＦＯＭＣで利下げについて議論していない。議論したのは政策金利が十分に景気抑制的かということだ。将来の金利水準を推測することが議題ではなかった。」

あっさりパウエル議長の「利下げについて議論した」との発言を否定した。このパウエル発言が２０００ドル本格突破を誘発したので金市場も無視できない。
更に「市場は３月利下げまで織り込みつつあるが」と突っ込まれると「市場は様々な要因に強く反応する。利下げを考えることさえ時期尚早だ。」と先走る市場予測に一石を投じた。
ドットチャートにＦＯＭＣ参加者１９名が各自の政策金利予測を書き入れたが、それが会議の議論の主題ではないとも語っている。
ＦＯＭＣでは副議長格で常任投票権を持つ重要人物の発言だけに金以外のＮＹ市場もあっけにとられた。
「利下げを議論した」と明言したパウエル議長とどちらを信じればよいのか。「ＦＲＢには逆らうな」から「ＦＲＢを疑え」がトレーダーたちの合言葉になりつつある、
仮にパウエル議長が今後発言を修正するようなことがあれば、ちゃぶ台返しで市場は大混乱に陥るので、落としどころを慎重に模索するであろうとの期待感で、金の下げも２０４０ドルから２０２０ドル程度で限定的だ。

とは言え先走る市場へのけん制発言だとすれば、ＦＲＢ内の亀裂を露わにすることで、中央銀行への信認を毀損しかねない危険な言い回しだ。
他のＦＯＭＣ参加者も黙っていまい。
既にアトランタ地区連銀ボスティック総裁はドットチャートに２４年利下げ２回と書き入れたことを認めつつ「緩和への転換は慎重に検討すべきで拙速は避けねばならない」と語っている。
シカゴ地区連銀グールズビー総裁は「ＦＲＢが価格から雇用に軸足を移す時」と発言している。
総じて、引き締めから緩和への転換へのハードルは高く、今後の経済指標データを見守るスタンスである。

このような事態の推移に最も神経質になっているのは、１０年債利回りを５％超から３％台まで短期間に引き下げた債券先物市場の買い方であろう。年末を控えいずれポジションを手仕舞う動きが顕在化しよう。既に含み益はかなりの規模に膨れているので、じっくり出口を模索する心理的余裕があるが「Ｗｅ　ｍｕｓｔ　ｄｅｌｉｖｅｒ（結果を出さねばならない）」という表現で含み益を実現化する段階が近いことを示唆している。

新雪がドカ雪の如く積もった投機的ポジションが引き起こす表層雪崩が起これば根雪が現れる。それは１０年債利回りで４％台前半から半ばとなろうか。２年債との逆イールド（長短金利逆転現象）という異常現象は解消されまい。米大統領選を控え米財政リスクも新たな火種である。イエレン財務長官は米国債増発懸念を一蹴するが、格付け機関がこの時期に動くと表層雪崩を誘発するノイズになりかねない。ＦＲＢには管轄外で制御できないリスクゆえ、金融政策主導の資産価格形成の構図が急変する可能性もある。金価格上昇トレンドの理由が大きく変わる可能性が出ている。要経過観察である。

なお、ウイリアムズ氏の爆弾発言の写真がツイッター　＠ｊｅｆｆｔｏｓｈｉｍａに出ている。思わずテレビ画面を撮った。筆者も心底驚いて危うく紅茶を吹き出しそうになったぜ。このびっくり発言は尾を引くな。