豊島逸夫の手帖

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米国債が格下げされる日

2019年1月11日


トランプ大統領「私のメキシコ国境壁建設予算に合意するか?」
民主党ペロシ下院議長「NO」
「これ以上話すことはない。」とトランプ大統領は席を立った。
「今日の会談はそれだけだ。」と民主党上院トップのシューマー院内総務は憤然と記者団に語った。
すかさずトランプ氏はツイート。
「ナンシー(ペロシ氏)とチャック(シューマー氏)とのミーティングを終えたところだ。時間の無駄。ナンシーはNO、私はバイバイ、それだけだ。」


今回の政府機関一部閉鎖期間も9日で19日目。クリントン時代の過去最長21日間に迫る。しかも全くまともな話にならない。これまでは「またか」とタカを括っていた市場もそろそろ苛立ち始めた。格付け会社フィッチも9日このままでは米国債トリプルA格付けにも関わると警告を発した。但し「もし予算案が議会を通過できず、債務上限引き上げが難航すれば」との条件付きだ。


市場の懸念も、政府閉鎖の延長戦上に必至の債務上限引き上げ問題だ。財政政策が機能不全に陥れば、米国経済減速が顕在化した場合のカンフル剤投入が覚束ない。株式市場が危惧するシナリオだ。既に19年会計年度の財政赤字は1兆ドルを超える可能性が強い。リーマンショック以来の事態で、しかも好況期に税収が増えても財政収支がこれほど悪化することは異例だ。外国債券為替市場では基軸通貨ドルの信認が問われる事態になる。ここぞとばかりに米国債最大保有国の中国が米国債売却を加速させるかもしれない。そしてドルの代替通貨としての金が買われる。


財政政策が機能不全になれば結局金融政策への依存度が高まる。その司令塔FOMCの12月議事録が発表されたが、利上げに対する慎重な姿勢が改めて確認された。同時にFRBも今後の米国経済見通しは読めず、データ次第という「出たとこ勝負」的なスタンスで対応せざるを得ない実情がヒシヒシと伝わる内容であった。「米中貿易戦争、逆イールドなど視界不良の中では、もはや金融政策の方向性を明示する"フォワード・ガイダンス"などはできる状況にない。」との意見も記されている。


FRB資産圧縮も議論されているが、あくまで金利が金融政策主要ツールで資産圧縮は「二次的」と位置付けられる。しかし過剰流動性依存症が顕著な市場は、FRBのばら撒いたマネーの回収には殊の外神経質だ。
しかも、今年から全てのFOMC後に記者会見を行うことになり、市場では「出たとこ勝負」を昨年の倍、見守らねばならない。積極財政・金融引き締めのポリシーミックス(政策の組み合わせ)が金融政策だけの片肺飛行となり、その唯一のエンジンにも不具合が生じている。
しかもネジレ議会では迅速な政策対応を望むべくもない。
経済政策面で今年のビックリシナリオは、金融政策の「利下げ」と財政政策機能不全による米国債格下げであろう。いずれも金1400ドル突破シナリオだ。
小康状態にある市場のボラティリティー異変もトランプ・ツイートひとつで即再燃となりかねない。


未だ健在で新著を書き上げるほどのグリーンスパン元FRB議長もご意見番として再三メディアで警告を発している。クリスマス市場異変の前には「逃げろ。」と語り、今週は「金融政策より財政政策のリスクを注視すべし。」と述べている。
イエレン前FRB議長は「民間企業債務膨張がリスク。」と指摘する。
現FRB議長パウエル氏は市場のきつい洗礼を受け、前言を覆し「利上げ急がず」の方針をやっと固めたところだ。
金市場がざわついている。


写真は虎屋の季節の生菓子(柚子)。食べるのがもったいないくらいホンモノみたいに仕上がっている。


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2019年