豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 全人代に見る中国の難局
Page2746

全人代に見る中国の難局

2019年3月12日

今回の全人代で中国は過去の膨大な借金の清算は先送りにして更に借金を増やし、インフラ工事とか減税の大盤振る舞いをせざるを得なくなりました。李克強首相も易綱中国人民銀行総裁も中国にしては珍しく国が難局にあることを認め語っています。

昨年の全人代では、過剰債務を抱えるゾンビ企業や実態が不透明なまま膨張した影の銀行(シャドーバンク)の整理を前面に打ち出し「構造改革」路線をアピールしました。それから1年。政策の180度大転換を強いられることになったのです。

膨らんだ借金の返済を強いれば、当然企業破綻が急増して工場閉鎖が相次ぎ、失業が増えます。闇の金融会社を取り締まれば、たちまち中小企業は資金繰りがつかず倒産してしまいます。

経済の理屈から言えば、銀行の不良債権は整理せねばならないし、借金返済の目途がつかない不良企業には退場してもらわねばなりません。

しかし、そこは社会主義国家の中国。

景気に赤信号が灯れば、不良債権まみれの国有銀行も借金まみれの民間企業も国により救済されるのです。

加えて、経済を活性化して失業者の一揆を未然に防ぐためには、更に借金を積み増してでも公共工事や銀行融資を力づくで増やすのです。それが今年の全人代での政策転換でした。

米中貿易戦争から受けたダメージも効きました。これまでのトランプ大統領による関税攻撃で中国経済を引っ張ってきた稼ぎ頭の「輸出」が激減したのです。

振り返れば中国の経済は10%以上の高成長を続けていました。しかし今や世界第二の経済大国になると、そもそも年率10%の高度成長など望むべくもありません。近年は7%から6%台に減速してきました。例えて言えば、高速道路を100キロ以上でぶっ飛ばしてインターから一般道路に入ると、60キロでも車があたかも止まっているかのような錯覚を感じますよね。中国の国民も同じような減速感を味わっているのです。

今年の全人代では2019年の目標経済成長率も6~6.5%と設定されました。昨年の「6.5%前後」という目標を下回る数字です。

これを発表する演説をした李克強首相が1時間45分もの熱弁をふるっている間、隣席の習近平国家主席は憮然とした表情で時折側近に喋りかけたりしていたことが話題になっています。

「ばら撒き型の景気刺激は断固やらない。」

李克強首相は断言しましたが、結局発表された景気浮揚策は「ばら撒き」でした。

借金まみれの地方政府には、もっと資金を調達してインフラ工事を増やせるように地方債の発行枠を6割増にするという大盤振る舞い。

不良債権を抱える大手国有銀行には、中小企業向け融資を30%増やす大盤振る舞い。

そして、企業減税のおまけ付き。

さすがに李克強首相もこの時は「財政赤字圧力が高まる。」と開き直って認めざるを得ませんでした。

しかしながら、市中におカネをばら撒いても企業が将来への視界不良から設備投資を控えると経済成長を生む企業融資にはなりません。挙句の果てには、その過剰マネーが不動産市場や株式市場に流入してバブルを生む結果にもなりかねません。

前途多難な全人代です。

さて、今日の写真は旬のホタルイカと珍しく貝から外したばかりのアオヤギ@マスコミ寿司。引っ越して新装した外国人特派員協会の中の知る人ぞ知る鮨のお店。予想されるゴーン元日産会長の記者会見場もこの協会かな??

3016a.jpg
3016b.jpg

 

 

2019年