豊島逸夫の手帖

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人民銀行のツートップ、株安連鎖を断つ

2019年8月7日


6日の上海市場。オフショア人民元が7の大台で推移する中、人民銀行は毎朝設定する人民元基準値を1ドル=6.9683元に設定した。この基準値から上下2%の範囲内で6日のオンショア人民元相場は変動することになる。実に絶妙な基準値設定だ。前日終値より元高で、危機ラインとされる7の大台は回避している。しかし2%の変動範囲の安値圏には7台が入る。


この人民元相場誘導の司令塔が易綱人民銀行総裁と郭樹清副総裁だ。郭氏は人民銀行の肩書では易氏より格下だが、党の肩書では共産党委員会書記で、共産党委員会副書記の易氏より格上である。しかも郭氏は銀行と保険の監督部門統合で発足した銀保監会の主席も兼務する。筆者が8年間アドバイザリーを務めた中国民間銀行内では「泣く子も黙らせる」と恐れられていたほど強い監督権限を持つ監督機関だ。


人民銀行内では易氏が外の顔。郭氏が実務を掌握する。この二人の上に米中貿易閣僚級交渉で中国側を代表する劉鶴経済担当副首相がいる。

易氏は米国の大学で教鞭を執るほど英語は達者で欧米市場に精通している。欧米で開催されたフォーラムなどの常連で中国経済について中国側の見解を主張する立場にあった。欧米国際金融市場との接点も多く、外為市場における人民元の立ち位置を理解している人物だ。人民元相場が7の大台を突破する意味は熟知していると言えよう。


一方、郭氏は習近平政権の意向を受けて動く。時あたかも政権と党長老が集う北戴河会議が進行中だ。トランプ大統領の対中追加関税電撃発表の対抗措置として人民元安誘導の指示を受け、人民元基準値設定の指揮を執る立場と言えよう。


もし6日の基準値が7台に設定されていれば世界株安の連鎖は続いたであろう。しかし6台に設定されたことで当面は危機が回避された。同時に変動範囲の安値圏は7台に入ることでトランプ氏の「為替操作非難」の恫喝には屈せず、北戴河会議でも弱腰の誹りを受けることはなかったのではないか。


7月31日に上海で開催された米中閣僚級貿易協議は僅か4時間ほどで終わり、成果なくライトハイザー通商代表とムニューチン財務長官は帰国した。その結果をホワイトハウスでトランプ氏に報告した直後に対中追加関税を発表するトランプツイートが流れた。


市場は中国の報復措置に注目した。
結果は貿易戦争が通貨戦争に飛び火した。
中国側は「待ち」の作戦のようだ。


トランプ氏が対中批判を強めれば強めるほど米利下げの確率は上がってゆく。FOMC後の記者会見でもパウエルFRB議長は米中貿易摩擦を利下げ決定の重要要因として注視と語っていた。FRBが利下げ回数を増やせばドルには売り圧力がかかり、相対的に人民元レートは上昇することになる。
ここは市場の実勢に任せ人民元安のスピードを減速させる方が得策であろう。


追加関税についても今回は日用消費財が多く含まれるので、米国市民が感じる痛みも強くなる。

米国農産畜産品の購入停止についても米国生産者の忍耐が限界に近い。例えば中国人が好む豚肉。中国国内ではアフリカ豚コレラ発生により国内での豚肉生産が止まった。米国からの輸入依存度は高まる。米生産者としては販売拡大の絶好のチャンスだ。


このような状況下で、中国側としては2020年大統領選挙を視野に動くトランプ氏が票田からの不況音を無視できなくなる時を待つ姿勢と見える。

果たして中国経済が消耗戦に耐え得るか。
習近平政権にとっては大きな賭けだ。
香港情勢も放置できず問題山積の中で米中綱渡りは続く。


かくして危険な賭け、綱渡りを不安視する市場では金価格が1490ドル近くまで続騰中。久しぶりの大相場。


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それから今朝の産経新聞一面記事で詳しくコメント。渋野日向子選手帰国写真に並び掲載され光栄です(笑)。


https://www.sankei.com/economy/news/190806/ecn1908060024-n1.html


今日の写真はマンゴーアイスと胡麻ソースのユニークな組み合わせ。わらび餅添え@TAKAO。


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2019年