豊島逸夫の手帖

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2018年中央銀行金買い、1971年以来最高水準に

2019年2月1日


今日の日経朝刊一面に金地金の写真が載っていて「中銀にあふれる金」という見出しで経済面の金記事が紹介されていました。


ワールド・ゴールド・カウンシルが2018年金需給統計速報を発表。

特に中央銀行の金準備が651トン増加したことが記されています。


中央銀行と金と言えば、1990年代から2000年代前半にかけて欧州主要中央銀行が大量に金を売却したことが思い出されます。金利の付かない金を保有するより、ドルに換えて保有した方が良いとの判断でした。イギリス、スイス、フランス、ベルギー、オランダと相次いで公的金売却が続き、市場は次はどこの国が金を処分するのか疑心暗鬼になったのです。NY金も1999年にはなんと250ドル台の最安値に沈みました。当時のメディアは金200ドル時代などと報道したものです。円建てではグラム900円台になりました。今となっては信じられないバーゲン価格(笑)。


これは金を外貨準備として大量に保有する中央銀行にとっても一大事。自分たちの売りで自分たちの首を絞めるようなもの。そこでワシントンでIMF総会後に集まり、金売却自主規制案を決めたのです。中央銀行の金売却は年間400トンを上限として抑制するという内容。ワシントン協定と言われました。これは効きました。市場は売却量が予め分かっていれば、それを織り込んだ水準で安定するからです。事実、250ドルは結果的に最安値となりました。


金大量売却に走った欧州の中央銀行は極めて安い価格で売り急ぐ結果になったのです。イギリスなど353トンもの金を推定価格300ドル以下で売り払ってしまったので、後々国会で野党の格好の追及材料扱いされたほどです。国のお宝をとんでもない安値で売っ払った責任者を出せとばかりに。因みに責任者は当時のイングランド銀行総裁、後のゴードン・ブラウン首相でした。


金需給統計でも「中央銀行」の項目は売りなので「供給」サイドに示されたものです。2005年の中央銀行セクターは663トンの「純売却」でした。2018年の純購入651トンとの絶対差はなんと1300トン!年間生産量が3346トン(2018年)の市場規模ゆえ、マーケットの景色が変わりましたね。

トレンドとしてリーマンショックを境に外貨準備として金を買い増す新興国が続出。統計的にも「需要」項目となったのです。

今日の記事でコメントしたようにトランプ大統領の登場で基軸通貨としてのドルの信認が低下したので、新興国は保有ドルを売り、金の保有を増やしているのです。


中国・ロシアにとっては金は無国籍通貨なのでナショナリズムの匂いのしない金が選好されます。ドルを保有すれば米国経済圏に入ったも同然と見なされますから。中東では嫌米感情が強いので嫌米債が発行されるほど。米国の金融システムとは隔離された市場環境で発行・売買される債券のことです。

中央銀行が金を購入することはヘッジファンドが金を買うのとは訳が違います。経済有事に備えた金準備増強ですから。上がったら即売って儲けようという発想はありません。

ゆえにボディーブローのようにずっしり需給要因として効くのです。


なお、本欄1月24日付け「中国の金準備増強」も参考にしてください。

2019年