2019年1月18日
米株式市場を揺らしたアップルショックの震源は、クックCEOの中国名指し減益予測発言だった。そして日本電産永守会長が中国名指しで一転14%減益を発表した。安川ショックの二の舞か。
そもそも2019年株価予測では米中貿易戦争の影響度が重要要因とされていた。そのど真ん中を突く永守発言の影響は重くボディーブローの如く効く。
そこに救世主が現れた。17日のNY株式市場に流れた米中貿易戦争関連観測記事である。
静かだった地合いが大引け90分ほど前にいきなりダウ平均200ドル超の急騰。またまたアルゴ売買のいたずらかと見れば、震源はウォールストリートジャーナル電子版の観測記事だった。ムニューチン財務長官が対中関税取り下げを提案との消息筋発言を報じている。報道内容では政権内ライバルの対中強硬派ライトハイザー通商代表が同意したのか定かでない。その後トランプ大統領への提案はないとの否定声明も出された。二人のライバルを戦わせ自らが最終決定するというトランプ流戦術が透ける。今月末に訪米する中国副首相との会談がキーとなりそうだ。
市場の視点ではこの観測記事で瞬間的に空売りの買戻しが集中した。更に株価変動要因として米中貿易戦争がいかに強く意識されているかが改めて露わになった。もしこの記事内容が本当なら昨今のボラティリティーの高さから推して、ダウ平均が200ドルはおろか500ドルから1000ドルの上げ幅で瞬間急騰しても不思議はなかろう。
17日は報道後、乱高下して結局ダウ平均が162ドル高で終えた。少なくとも鎮静化していた地合いに「喝」を入れた感が残る。
ここで注目すべきは2019年日米企業業績減速傾向であろう。
米企業決算シーズン入りしたが、2019年1~3月期の減益傾向は時間とともに強まっている。モーニングスター社のレポートでは2018年10月1日時点の決算予測がプラス8.1%だったが、2019年1月1日にはプラス幅が5.3%に縮小。そして直近では3.1%まで下がってきたとされる。
企業業績が「減速」なのか「マイナス圏入り=景気後退」なのか。見方は市場内で割れる。
17日には1月のフィラデルフィア連銀製造業景気指数が前月9.1から17に改善して好感された。しかし直近発表の各地区連銀の同指数はいずれも悪化している。
NY連銀製造業景気指数(12月)はプラス3.9で前月比マイナス7.6。
ダラス連銀(12月)がマイナス5.1で前月比マイナス22。
カンザスシティ連銀(12月)はプラス3で前月比マイナス12。
リッチモンド連銀(12月)がマイナス8で前月比マイナス22。
因みにこの経済統計群はゼロよりプラスなら景気改善とされる。
更に今週発表されたFEDベージュブックでは、減速を意味するslowという単語が昨年9月の25回から今回は65回も使われていることが注目されている。
更に「タカ派中のタカ派」と言われるカンザスシティー連銀エスター・ジョージ総裁が「ハト派に変節」したことも景気減速観測を強める。
今週の決算もシティーグループ、ゴールドマンサックスが結果好調と囃され、ダウ平均も金融株推進により連騰してきた。しかし17日には、お堅いことで知られるモルガンスタンレーの決算が不調で市場内に失望感を生んだ。気迷い気分が漂う。
マクロ経済面では2019年米GDP成長率が2%から2.5%のレンジで収まり、減速だが軟着陸で景気後退は回避されるとの見通しが目立つ。
しかし、目下の政府一部閉鎖が長引くとGDPへの影響も避けられない。既に80万人ほどの公務員への給与支払いが滞っている。特に38万人ほどと推定される自宅待機組は「失業者」にカウントされるので雇用統計への影響も懸念される。そもそも政府機関閉鎖の煽りで小売り統計など主要経済指標発表が延期されている。このままでゆくと次回FOMCが「データ次第」と言うものの、そもそもデータ不足のなかで議論を強いられよう。かねてからパウエルFRB議長は金融政策運営を「暗闇で手探り」と例えていた。
この視界不良状態で企業決算は民間ゆえ滞りなく発表されてゆく。
「悪ければFRB頼み」の市場心理にデータ不足のFOMCが応えられるのか甚だ疑問だ。
景気後退は回避されようとの定説も揺らぐ。
年末年始の株価大変動の余震に脅える市場心理は続きそうだ。
金価格は1288ドルから1292ドルのレンジで安定。安全資産。
市場のボラティリティーが高まると金は買われ、低まると売られる傾向がある。これは日経の2019年金価格予測インタビューでも指摘したのだが、文字数限定の記事ゆえ削除されていた。
なお、昨日は米国人気投資家ジム・クレーマー氏が「I am a gold bug!=金は買い!」と発言して話題になった。最近、金鉱山会社の大型M&Aが二件続き、供給サイドの合理化が進んだことを評価している。株式市場目線の金買い論だね。産金業界では採掘コストが安い鉱脈はほぼ開発済。これからはリストラによるコスト削減で帳尻を合わせるほかない(まぁ月とか火星に金があったら別だけどね 笑)。
ところで今週号日経ヴェリタスは「マーケットには逆らえない」、対して今週号週刊エコノミスト誌ではカバー記事「騒乱相場」で私が「イエレン時代にはFRBに逆らうな。パウエル時代にはFRBを疑え。」とコメント。結局2019年利上げ回数について従来のFRB予測3~4回が市場予測0~2回に降りてきたことを示唆している点で共通。