2019年12月20日
今日のお題は「株式」。日経マネー筆者コラム「豊島逸夫の世界経済の深層真理」に書いた原稿です。
米国株価指数は最高値を更新した。相場はユーフォリア(歓喜)で終わる、と言われるが、市場では悲観論も根強い。長期株価上昇サイクルの最終回は、始まったばかりだ。まだ十分に買う余地はある。
このような論調で、欧米市場では、米国株から欧州株、新興国株、中国株まで相次いで強気論が披歴され最後に「あの日本株まで」上昇傾向と語られ、苦笑してしまう。Even Japan(あの日本)という一言が何故、日本株だけにつけられるのか。それも一度や二度ではない。本欄で語ってきたように、ジパングの国の株価は依然「エキゾチックなラスト・フロンティア」と見做されているのだ。
そのような市場環境で、最近注目されたのがカリスマ・ヘッジファンドのクーパーマン氏の発言。30分近くテレビに生出演して株価強気論をまくしたてた。それ自体は珍しいことではない。
驚いたのは、話題がエリザベス・ウォーレン民主党大統領候補になったときだ。同候補はクーパーマン氏を「鬱陶しい存在」とけなしていた。そもそも、自らの力で富豪になれるものではない。幼児からの教育、社会の仕組みなどが、富豪を生み出したのだ、というのがウォーレン流の解釈だ。それゆえ、議論は、社会主義か資本主義かという基本論に及ぶ。
当然、クーパーマン氏は強く反論する。
ウォーレン・バフェット氏を罪人扱いで、株で儲けたカネは罰金の如く税金で吐き出せと迫る風潮は、到底受け容れられない。「アメリカン・ドリーム」はどこに行ったのだ。このような時代が続けば、子供たちや孫たちの将来は暗い。
ここまで語ったところで、家族のイメージが浮かんだのか、突然、同氏が涙にむせび始めた。これには、テレビ画面に見入っていたウォール街の人たちもビックリ。鬼の目に涙か。普段は強面で通っている人物だけに、意外感が強かったのだ。
かくして、「まさか」と思われる「ウォーレン大統領」誕生シナリオだが、ウォール街では、かなりの現実味を持って語られている。
トランプのほうがマシだ。民主党政権に法人減税まで撤回され、株式売買益に増税されれば、株価は25%暴落しても不思議ではない、との見解などが流される。
たしかに、トランプ流株価操縦術は巧みだ。
最高値更新が予想される当日の寄り付き前後を狙って、米中通商協議に関する楽観論を流す。みずからツイートするときもあれば、閣僚級に語らせる場合もある。
いっぽう、「米中協議には時間がかかる」など慎重論を敢えて語るケースも見受けられる。「株価史上最高値更新」という大統領選挙に恰好のネタは、2020年、選挙戦が佳境に入ったときまで温存したい、というのが本音ではあるまいか。このまま上がり続ければ、肝心の時期に調整局面に入ってしまうかもしれない。利益確定売りのアニマル・スピリッツまでは大統領権限でコントロールはできない。今、新高値連日更新は早すぎる、と読めば、相場を冷やすコメントも厭わない。国内の対中強硬派への配慮にもなる。
米中交渉関連では小出しに妥協して自画自賛を積み上げてゆく、という本音が透ける。マーケットも阿吽の呼吸で、トランプ流に乗っている感もある。そもそも、市場参加者の殆どが、米中全面合意などあり得ないと思っているし、期待もしていない。中国叩きは、とにかく票を稼げるので、共和・民主超党派で一致するところでもある。
なお、超党派の支持を集める論点で市場に影響を与える注目アジェンダ(議題)がもう一つある。財政赤字容認だ。
いよいよ米国財政赤字が1兆ドルの大台に膨らみつつある。しかし、市場に財政規律の観点からの危機感は薄い。選挙年には、超党派で積極財政に傾く。マーケットには心地よい響きを持つ「ばら撒き」政策合戦の様相が予想される。
ウォーレン候補は、国民皆保険の巨額財源を富裕者増税に求める。大統領選挙は、富の偏在による国内の分断をもあぶり出す。
先が読めないとされる2020年だが、筆者はトランプ再選と見ている。
民主党候補討論会を隈なく見ているが、登壇する候補者の数が多く、お互いのかけひき、あるいは、特定候補を集中砲火で引きずり降ろす、などの動きばかり目立つ。ヒラリー・クリントン候補ほどのカリスマ性を持つ候補者が見当たらない。
対して、トランプ大統領は、米中貿易問題からシリア米軍撤退まで一貫して特定の支持層を狙い選挙戦で堅くポイントを稼ぐ。市場を荒らす発言ばかりが取沙汰されるが、実は徹底した選挙のプロだと感じる。
マーケット目線で、本当に警戒すべきは、トランプ二期目の中間選挙前後ではないか。そろそろレームダック化したときの開き直りが怖い。それまでに積み上げた債務の山が、土石流の如く市場を直撃する可能性がある。GDPに占める財政赤字の割合が5%に接近して、米国債の格下げが材料視されるシナリオなどが頭に浮かぶ。
逆に言えば、トランプ相場最終局面はそれまでは紆余曲折を経て継続と見る。
冷静に見れば、危うい綱渡りだが、そもそも、相場に易しい綱渡りなど無い。賛否両論渦巻くなかで、覚悟して臨むことが、即ち、リスクを取ることなのだ。
さて今日の写真はフランスはブルターニュ地方名物の蕎麦の「ガレット」=クレープ。トゥルーズソーセージ、旬の茸、チーズ、北海道産生クリームを蕎麦クレープで巻いた一品。日本蕎麦2杯分以上の蕎麦粉が使われ結構なボリューム。ブルターニュといえばモンサンミッシェルだよね。特に潮の満ち引きが激しく、荒波に揉まれた海水はミネラルを豊富に含む。その海水を使ったホンモノのタラソセラピーはわざわざパリから来る人も多いほど人気。牧草地も満ち潮では海底下になるので、ミネラル豊富な牧草を食べた子羊の肉も全くクセがなくやみつきになる。