豊島逸夫の手帖

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サウジ、原油緊急輸入も、信頼回復に奔走か

2019年9月20日

サウジアラビア政府がイラクからの原油緊急輸入を検討との報道が19日の国際原油市場に流れ、原油価格が急騰する局面があった。

原油施設爆破後、早期供給能力回復を明示して市場に安堵感を与えた直後ゆえ、マーケット内部では原油供給懸念が蒸し返されている。

原油輸出先顧客への供給義務を果たすために、国内向け原油供給も削減して信頼維持を優先する方針とされる。具体的にはイラクの国営石油会社の名前が候補として挙がっている。イラク動乱時にはサウジの余剰生産能力が発揮され、イラクからの供給減を埋め合わせた経緯もある。今や世界最大の原油生産国とトランプ大統領も自慢げに語るほどの米国からの補完的供給増の可能性も指摘される。

一方、サウジアラビア国営石油会社アラムコの「史上最大」となるIPOの件については、今回の爆破事件で延期の観測が市場には流れていた。しかしここでも国としての面子を保つためには、大富豪の王族たちにアラムコ株の一部を引き受けさせるとの報道も相次いできた。「腐敗」疑惑で豪華ホテル内に監禁され、財産を凍結された富豪王族たちの「愛国心」を試す如き動きとされる。

かくして形振り構わぬサウジアラビア政府、より具体的にはムハンマド皇太子の姿勢に市場の注目が集まる。

そもそもイスタンブールでのサウジ人記者殺害事件に、同皇太子が直接関与との疑惑は未だ晴れていない。しかし米国大手投資銀行は、超大型IPO案件の幹事獲得の座を巡り熾烈な先取り合戦を舞台裏で繰り広げてきた。

サウジアラビア側もアラムコIPOは脱石油戦略の長期国家戦略を資金的に賄うため必須の案件で、失敗すればムハンマド皇太子の権勢を揺るがしかねない状況にある。

まずは国内株式市場でアラムコ上場を達成した後、海外上場を目指す計画で、その候補先として東証の名前が挙がっており日本市場にとっても他人事ではない。東証の外国株売買は極めて低調な状況が続いており、日本国内では冷めた見方も多いがウォール街では注目の案件だ。ロンドン証取と香港証取が当初は候補として挙がっていたが、ブレグジットと香港紛争を理由に落選との見通しが強まり、消去法で東証が浮上した経緯がある。その落ちたとされる両取引所に買収合併の話が持ち上がったが、結局折り合わずとの結末となっていた。

サウジアラビアを巡る原油とマネーの流れは、時代の流れを象徴する如き展開となってきた。

そして金の話題は、高値で日本では買う人たちも増えているという日経朝刊商品面記事。見出しは『金、高値でも売らぬ個人、増税「差益」や老後不安 三菱マテリアル「純金積立」加入6~8月倍増』とある。あれ、三菱マテリアルのPR記事かと思ったら編集記事だった(笑)。

「国は信じられない、会社も信じられない、男も信じられない、金なら信じられる(かも)。」という発言をどこかで聞いたことを思い出す。

さて今日は「保険」の話題。

金と保険は家庭内有事に備え、寄らば大樹の如き発想を共有するので、例えば機関投資家で金を買うのは保険会社が多い。

その保険会社の中で、特に最近は生命保険会社に関する問題点が指摘されている。

その典型が中小企業向け「経営者保険」だ。オーナー社長が死亡した場合に保険金が支払われるので、零細企業の社長死亡リスクを軽減させる意味は理解できる。

しかし問題はこの保険がそのような「有事の備え」としてではなく「節税狙い」に販売されたことだ。

企業が保険料を払うと全額を損金算入できる。更に中途解約すると異常に高額に設定されて金額が戻ってくる。企業側としては、保険料を払って納税額を抑えた上に解約すれば保険料の殆どが回収できてしまう。販売側もそれをセールスポイントに営業する事例が多かった。節税指南的な生命保険会社のモラルが問われる。国税庁も金融庁も対策に動き始めている。

もう一つの問題商品が外貨建て保険だ。

為替差損が生じるリスクが十分に説明されているか否かが問われている。

これに関してはリスク開示は当然だが筆者は異論がある。

結論から言えば、円のリスク開示はどうなの?ということだ。

私は自ら財産の半分はドル建て資産と語って憚らないほどの長期(短期ではないよ)円安論者。少子高齢化で移民にも拒否症状が強い国の稼ぐ力は将来減ってゆくので、円という通貨は減価して当然と見ている。知り合いを見ても、日銀や財務省出身のOBたちが虎の子の退職金を円では持ちたがらないという現象も不気味だ。

例えて言えば、ルーレットでチップを置くところはドル、ユーロ等々いくらでもあるのに、日本人だけは円という所にひたすらチップを膨大に積み上げ「これで安心。リスクなし。」と安堵している。私のプロの視点では、円だけという方がはるかにリスキーと映る。島国で「母国回帰」傾向が強い民族性なのかもしれない。

まして保険とは一般的に10年後、20年後に備えるものだ。そんな将来の日本が世界の中で唯一安心と信じるのは勝手だが、楽観的過ぎると私は思う。

外貨建て商品に関しては通貨リスクを「円」も含め開示すべきだというのが私の持論で、なお且つ自身で実践しているわけだ。

2019年