2019年12月6日
1.金は資産運用の脇役、株・債券が主役
金はインカムを生みません。金市場に流入したマネーが再投資されることもないので「不毛の資産」とも言われます。では金を資産で持つ意味は何なのでしょうか。結論から言えば、投資より保険に近い。欧州では「金は嵐の晩に輝く」と語られます。株や債券と一緒に保有して初めてリスク分散効果が発揮されるのです。量的緩和の出口が見えない今だからこそ、経済ショックに備えておく意味があるのです。経済がデフレになればリスクオフの中で買われ、インフレになれば実物資産として実質資産価値を維持する効果があります。逆に適温経済(ゴールディロックス)では売られる傾向があります。
2.長期保有して役立たないのが良い
基本的に金は「儲ける」ものではなく「貯める」ものです。特に円建て金価格は、ドル建て国際金価格とドル円相場の二つの変数から成る二次方程式で決まるので、正しい解を求めるのは容易ではありません。トランプ相場に一喜一憂して余計な売買にのめりこみ得するのは業者だけです。資産としての金の原点は、あくまで長期保有。買ったら忘れるくらいの気持ちで臨むことが大切です。そして保有した金が役立たないのが一番良いシナリオ。株や債券が安定している状態だからです。最近は役立ってしまう事が増えていることも事実ですが。
3.まとめ買いは避けよ、王道は積立感覚
短期的な金価格形成の主導権はNY先物市場が持ちます。それゆえ短期的乱高下はつきもの。しかも近年は御多分に盛れず、AIによる高速度取引が席巻しています。株・ドル同様に人間様がAI様の動きを予測したり後講釈する始末です。それゆえまとめ買いはプロでも高値掴みのリスクがあります。個人投資家は、熱い風呂に入る時のように、まず「かけ湯」から始める、即ち少しずつ、身の丈にあった量を地道に買い増してゆくことが王道なのです。毎月、女子会・居酒屋一回分程度の金額から始めることが良いでしょう。かく言う私も自分で金を買うときは積立に徹しています。プロほど自らの資産運用は地味なものですよ。お茶の間では「偉そうなこと言っているわりに、やることは地味だ。」とけしかけられていますが(笑)。
4.有事の金のドカ買いは悪魔の選択
有事の金の誘惑には気をつけましょう。最近、金市場で懸念される有事は、ホルムズ海峡封鎖などの中東リスクから北朝鮮リスクまで多岐に亘ります。更にリーマン級の経済有事も考えられます。一方、身近なところでは家庭内有事リスクも無視できません。スイスでは娘の嫁ぎ先が万一傾いてしまう「有事」に備え、嫁のへそくり資産感覚で母親が金貨を持たせることがあります。家庭内有事が勃発したら金貨を売って凌げという母の愛情の印なのですね。この「持参金」が株や国債では母の心温まる愛情が伝わらないでしょう。これを私は金のセンチメンタルバリュー(感情価値)と呼んでいます。
5.ムンバイ、上海、ドバイを見よ、金はバブルか
金の実需の中心は新興国にあります。文化的・宗教的に金の選好度が高いからです。中国では十二支が刻まれた金の延べ板が縁起物として買われます。インドではヒンズー教のお祭りの日に金が買われる習慣があります。更に新興国の中央銀行も外貨準備として金を買い増しています。いずれも長期保有され、高値で「利益確定売り」されることもなく「バブル」とは縁遠い買いの形です。中国・インドの民間市場だけで年間金生産量の6割前後が買い占められ、ブラックホールに吸い込まれる如く退蔵されるのです。一方、NY市場で先物がペーパーゴールドとして買われると、価格は短期的に急騰しますが、早晩売り手仕舞われ、結局バブルで終わります。長期目線では21世紀に入って金市場の需給が構造変化しており、非バブルの長期保有が増え着実に価格水準を切り上げているのです。
6.資産の1割程度に
金は資産運用の脇役でヘッジ資産ですから、保有割合も財産の10%程度に留めるべきです。これは私が長年勤めたスイス銀行でも世界中の顧客にアドバイスしていたことでもあります。初心者は10%を目標に数年計画で徐々に買い増してゆくことがお勧めです。最近聞いたある女性キャスターの実話ですが、お父さんが子供の頃から娘のために金を積み立ててくれていたが、金価格が高騰する前に売ってしまったと嘆いていました。金価格が動かないので「あきらめ売り」なのか、はたまた一向に娘に結婚の気配がないので「あきらめ売り」なのか定かではありませんが(笑)。
7.長期の視点でインフレに備えよ
今でこそデフレからディスインフレ傾向が定着して、物価上昇は鈍くインフレなどは「死語」に近くなりましたが、世界的な過剰流動性(マネー)の状況は続いています。インフレ率を引き上げるために強力なインフレ政策を実施しているわけですが、なかなか効果が出ません。しかしこれだけマネーをばら撒けば、将来的にインフレの種を蒔いていることにもなります。70年代の中東発オイルショック後のインフレ時には金価格が4倍に急騰しました。今、ホルムズ海峡封鎖リスクが顕在化して金価格が上昇していることも、歴史的に偶然と片付けられません。