豊島逸夫の手帖

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中東有石油、中国有稀土

2019年5月30日

「中東に石油あり、中国にレアアースあり。」

鄧小平元国家主席の言葉です。中国は戦略資源としてレアアースの採掘、半製品への加工の過程を育成してきました。レアアース(稀土)と言っても文字通りただの土に見えます。しかし精製するとIT産業や軍事産業には必須のレアメタルが抽出されるのです。中国がダントツの生産国で、米国は最大級のユーザーで輸入の8割を中国に依存しています。

そこで今回の米中貿易戦争がエスカレートする中で、中国はレアアース禁輸という「伝家の宝刀」をちらつかせたのです。

習近平国家主席が20日にレアアースの主産地、江西省の有力磁石メーカーを訪問、激励することで間接的に「この存在を忘れるな」というメッセージを発したわけです。

人民日報も「我々が警告もしなかったとは後になって言わせない」と刺激的な表現で威嚇しています。この表現は過去2回だけ使われています。60年代の中印国境紛争と70年代中越(ベトナム)戦争の時です。かなり挑発的ですよね。市場も敏感に反応します。

米国側はアキレス腱を突かれたので、とりあえず追加関税リストからレアアースは外しました。

一方、中国もむやみに強気には出られません。米国がレアアース最大の顧客なのですから。顧客がレアアースの供給ルートを変更して中国抜きに動くか、あるいはレアアースを使わない技術開発に動くかもしれません。実際に尖閣諸島問題が勃発した時、中国は日本向けレアアース輸出を規制しましたが、その結果日本側の企業は中国抜きの体制に切り換えたという事例もあります。

因みに習近平国家主席は江西省を訪問した時には「我々はかつての長征の出発点にやってきた。今また新たな長い道のりが始まった。」と鼓舞発言しています。長征とは国民党軍に敗れた中国共産党が拠点としていた江西省を放棄して、1934年から2年かけて1万2500キロを徒歩で移動したことです。

時あたかも天安門事件30周年の関連行事が意識され、愛国心が刺激されやすい状況です。習近平国家主席も国内向けに軟弱な姿勢は絶対見せられません。

市場はこの緊張感をヒシヒシと感じて、マネーが安全資産に逃避しているのです。

そして今日の写真は採りたて山菜の天ぷら。新鮮な山菜はこれに限るね!私は酒は飲まないけど、スポーツで汗を流して温泉に入って夕食にこれが供されたりすると、さすがに「生ビール飲みたい」という気持ちになるよ(笑)。

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2019年