豊島逸夫の手帖

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米中合意相場、2020年への教訓

2019年12月16日


トランプ氏は拳を振り上げ市場を威嚇したが、最後はその拳を振り降ろし米株価を最高値圏に留めた。

「12月15日には第四弾追加関税を発動する」との威嚇は効いた。

特に対象がパソコン、スマホ、玩具など消費財中心ゆえ、米国GDPの7割程度を占める個人消費への影響が懸念された。

冷静に見れば、大統領選挙を視野に米国選挙民が直接的痛みを感じる政策は実行の本気度が疑われた。しかし市場としては無視も出来ない。

この不透明性を利用してマーケットで暴れたのが高速度取引を駆使して超短期売買を繰り返すヘッジファンドだった。

外電、米経済紙などが矢継ぎ早に繰り出す米中貿易交渉関連の「観測記事」と「見出し」にアルゴリズムが逐一反応。株価のボラティリティーは激しくなった。トランプ氏が「交渉はうまく行っている」と数行のツイートをしただけでダウ平均が瞬間的に300ドル超急騰後、じり安に転じる局面もあった。結果的にはトランプ氏に操られたと言っても過言ではあるまい。


結局、2019年9月に発動された1200億ドル分に対する関税を7.5%に引き下げたことだけが関税面での実質的成果であった。

しかも合意内容の具体的内容は未だ明らかになっていない。特に米農産物輸入額は具体的に明示されていない。米国側の「腹積もり」として400~500億ドルの数字が市場を独り歩きしている。その内容は貿易戦争前の購入額が240億ドル、今回増量分が160億ドル、「努力目標」として50~100億ドルの上乗せ、計500億ドル程度との「見積り」が市場には流れる。

更に重要な検証方法も不明だ。知的財産権保護、中国市場開放については殆ど「精神条項」に過ぎない可能性がある。来年早々とされる合意文書を見るまではマーケットも安堵できない。


結局、米中合意発表後のNY株価が小動きで終わったことが揺れる市場心理を映す。

ヘッジファンドの間では「(米中合意の)噂で買って、ニュースで売る」動きも見られた。

実態は「停戦で越年」に近いが、トランプ陣営は「歴史的前進」と自画自賛する。

今回のような「米中貿易交渉劇」は2020年も繰り返されよう。トランプ大統領も自ら「次は第二段階」と明言している。

最新支持率動向により対中強硬・軟化と目まぐるしく態度が変わり、気性の激しい大統領はそのたびに刺激的なツイートを書き込み、外電に流れる観測記事の見出しにプログラム売買が反応する。


金価格もこのような異次元での展開に振り回されよう。

今回の結果を見れば金価格の下値が根強いことが確認されたと言えよう。米中合意でも1470ドル台。1450ドルは割り込まなかった。2020年に向け貴重な予告編を見た思いだ。


さてさて、久しぶりに京都祇園の「らく山」に行ってきたよ。

これだけ寒くなると「エビ芋」と「大根」がいよいよ旬の素材となる。


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「らく山」の海老芋は寒くなると成長して大きくなる。関東に「えびいも」として出回っている小さく丸いのは、私に言わせれば「ちゃう、認めない」(笑)。これがホンモノ。それに大将が熱を入れるとクリーミーで自然の甘味が引き立つ絶品となる。「芋」の重みを胃が感じない。ムースに近い食感。シンプルだが実はこういう基礎的な部分に、ソースなどには頼らず素材の真の味を引き出す料理人の実力が出るのだよ。大根も同様。火傷しそうなほど熱い出来上がりで「大根の炊いたん」と呼ばれるが、冬の大根の自然な甘みと食感が瞬間的に口の中に広がる。最近は盛り付けなどプレゼンテーションに凝り、星の数を競う料理人が多い中で、本当の「板さん」の真骨頂を見た思い~。


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2019年