豊島逸夫の手帖

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ウイグル族弾圧の余波拡散

2019年12月10日

新疆ウイグル自治区は中国内陸部で産金国カザフスタンなどと国境を接し、金など希少資源豊富な地域です。中国政府としては資源政策の観点からも重要な地域と言えます。住民は漢族以外の少数民族(特にイスラム教を信じるトルコ系)が6割を占めます。

近年は中国政府が弾圧を強化。百万人以上が収容所に入れられ、「再教育」と称する洗脳活動の対象とされています。街角には監視カメラ網が張り巡らされ、ヒゲをはやしているとか、指定のモスク以外で礼拝したとか、些細な理由で拘束されているとの実態を先月はNYタイムズが暴き話題になりました。エジプトに逃れ出産したウイグル族女性が拷問を受けたという話がネットで流れたりしました。親が収容所に入れられた子供たちには「親は良くない思想に感染した。思想上のウイルスを除去すれば自由になれる。」と説明されます。

人権問題として習近平政権は世界の批判を浴びていますが「情け容赦なく抑圧せよ。」との習近平演説が先のNYタイムズ報道では明らかになりました。反省するどころか「放置すればテロリストと化すので世界平和のために貢献しているのだ。感謝されて然るべきだ。」と強烈に反論しています。更に米国も痛いところを突かれています。「米国だって先住民族のインディアンに同化政策を押し付け、虐殺して広大な土地を占領して膨大な自然資源を収奪したではないか」。

確かにコロンブス到達後の100年間にヨーロッパ人の侵入により、南北米大陸では推定560万人が集団虐殺されたとの英国論文もあります。インディアン戦争では1500万人もの先住民が25万人に減ったという記録も米連邦議会図書館にあります。

歴史は繰り返すということでしょう。

現在の中国政府としては、香港と台湾で多数の波乱分子を持て余しているので神経質にならざるを得ません。

更に余波は経済界にも広がります。

新疆地区で生産された資源・製品は倫理的に排除する運動が起こっています。中国の監視カメラなどハイテク技術を米国は禁輸など経済制裁の対象に挙げています。関係者のビザ発給停止も含まれます。中国共産党幹部が中国ハイテク産業対米輸出に関わり恩恵を得ているので、その家族の訪米がブロックされると困るという事情もあります。民主党多数の米下院はウイグル人権法案を可決しました。

ドイツのフォルクスワーゲンも世界的に顧客の4割は中国。大手化学企業のBASFも中国が重要な得意先です。そこで国際世論の批判に晒されていますが「政経分離」で取引継続の方針です。今や中国はドイツにとっても最重要貿易パートナーゆえ、敢えて目をつぶらざるを得ないという苦渋の決断と思われます。

ADIDASやH&Mなどのブランドも巻き込まれました。新疆地区はファッション産業にとって繊維や糸の生産地です。そこで同地区生産の糸を使ったアパレルの不買運動の兆しも見られ始めています。

一方、トランプ大統領はこの人権問題を香港同様に米中貿易交渉の材料として利用する構えです。

かくしてウイグル問題は市場でも関心が高いトピックになっているのです。

さて、今週末は待望のガーラ湯沢スキー場オープン!既にシーズンロッカー予約済。後は雪次第。暖冬と言われる時は意外にドカ雪が降るもの。最も雪国に住む人たちは雪との戦いだから冬は大変な季節です。

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2019年