2019年3月28日
EUは天然ガス供給などエネルギーをロシアに握られ、同盟国米国には軍事・通商面で突き放され、中国には港やハイテク企業を買収され、中東とは移民受け入れ問題で関係がこじれ、まさに四面楚歌である。
しかも、英国のEU離脱はいまだに埒が明かない。
ドイツ、フランスの求心力は低下。
東欧などの周辺国は次々に中国マネー攻勢に屈し、飲み込まれてゆく。そもそも旧ソ連圏から冷戦終結で独立した国々だが、国内の有力企業は相次いでフランス・ドイツの大資本に買収された。それゆえ「自分たちの後ろ盾には中国もいるのだ。あんたがた(独仏)の好きなようにはさせないよ」との思いが強い。「中国カード」をちらつかせ、エリートの独仏を牽制している。
一方フランスはドイツを説得して、二国でのEU主導体制を固めるべく共闘に動いたが、ドイツが内向きでついてこない、あるいはついてこられない。フランスのマクロン大統領がまとめ役を買ってでたが、国内の黄色のベスト運動混乱で余裕がない。更にマクロン大統領は公務員12万人リストラに動く。フランスの公務員数は実にこの10年で470万人から550万人に増えた。特に地方公務員がなんと50%も激増している。人口がフランスより多い日本でさえ330万人程度だから、国民一人当たりのお役人がいかに多い国か。当然公務員たちは大反対の合唱。こういう国内問題を抱えているので一帯一路どころではないのが実態だろう。
それでもマクロン大統領は、一帯一路について二国間ではなく多国間協議で考えようという姿勢で両面通行を主張。つまり中国製品を買うばかりではなく、中国への売り込み・投資も開放せよということ。なお、習近平訪問中、フランスの新聞は新華社通信のPR記事が溢れたという。
一方ドイツは内向き。政治経済不安定で、中国との関係は深い。例えば、ファーウェイはドイツ国内75000の携帯通信基地で既に使われている。同社現地法人経由で。5Gテスト施設もファーウェイ頼み。ファーウェイが多くの特許を押さえているので、同社抜きだと2年余計にかかりコストも大幅アップしてしまうのだ。とは言え中国への警戒心も強い。外資によるドイツ企業買収も発行済株式の10%までに制限。従来は25%であった。
実はメルケル・習近平の二者会談も開催されたのだがメディアは殆どスルー。メルケル首相のレームダック化。そのようなドイツ人のストレス発散は、ドイツの自慢であるアウトバーン(速度制限なし)を200キロでぶっ飛ばすことだそうな。
総じて欧州勢はトランプの背中から顔だけ出して、トランプの「中国はずるい。輸出で稼ぎまくって輸入は制限してずるい。」に、そうだそうだ!!と相槌を打ってきたのが、今回初めて欧州勢が直接習近平に物申した。中国側も米国との貿易戦争で形勢不利ゆえ、欧州をなだめ懐柔する必要を感じて訪欧したようなもの。欧州企業も中国企業も米中貿易戦争の煽りで企業業績は急速に悪化中だ。1~2月の中国の自動車セクターは前年比マイナス40%もの減益幅を記録している。ここは欧州との関係を固めておく必要があるのだ。
総じて、習近平のイタリア・フランス訪問は米国に対する「当てつけ」の意味があろう。
なお、イタリアが一帯一路の覚書に署名したのは、フランス・ドイツの「EUエリート国」への「当てつけ」でもある。
そもそもイタリア連立政権の中の極左「五つ星運動」は、貧困撲滅のためエリートに反旗を翻したことで選挙の票を増やしてきた経緯がある。それゆえ、独仏からの援助を受けると「エリートに身売りした」との謗りを受ける。EUがイタリアの親中姿勢を注意するようなことがあれば、ここぞとばかりにEUにたてつく。「独仏のエリートに支えられた強大なEUを相手に戦っている」との印象を選挙民に打ち出せば、選挙で票は稼げるからだ。今や欧州では5月23日の欧州議会選挙に向け選挙一色なのだ。
かくして欧州の分断が強まれば、中国はほくそ笑む。習近平は白馬の騎士の如く、お助け申し上げるとばかり振舞う。