豊島逸夫の手帖

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金と消費増税

2019年5月16日

テレビ局でも聞かれた。

まず経歴を見て「はぁ、金のこともご存じなんですね~~。」

「ええ、まぁ一通りは。」とか答えて(笑)。

そして聞かれるのが「消費税が上がる前に買った方がいいっすかね?」

やっぱりそう来たかという感じ。

私の答えはこうだ。

「2%程度消費税が上がるからと言って、増税前に買って増税後に売って儲けるというのは、あまりに短絡的な発想。その程度は一日の価格変動で吹っ飛ぶ。だから増税前後に売買益を狙うのはお勧めしない。

一方、長期的に見れば日本の消費税もいずれ欧州並みの20%前後に上がるのは不可避だ。少子高齢化で移民も拒む国が巨額の財政赤字を抱え、税収を増やさねばどうみてもやってゆけない。しかし増税では絶対と言っていいほど選挙に勝てないから、政治家は先送りするがどこかの時点で貧乏くじを引く首相が出てくるだろう。

そこまで考えれば、金を長期的、定期的に買い始める最初の一歩の機会にはなると思う。人間は新たな行動をとる時、切迫感がないと動かないものだ。今回予定されている消費増税が実行されれば、その機会を提供すると思う。」

こう話すとメディアの好むネタにはならない。手っ取り早く儲かる方法でないと発行部数・視聴率アップが見込めないからだ。地味な話は話題にはなりにくい。

それゆえ私は自分がプロとしての苦労話を教訓として披露するわけだ。スイス銀行のトレーダーとしてのキャリアを通して、3000回以上相場を張った。その生涯星取り実績は、ざっくり1600勝1400敗程度。一場所8勝7敗で御の字。負け越しが続くと即クビだ。12年間「平均で」8勝7敗を続けることがどれほどキツイものか。期末に近づき負け越している時など素人の堅気衆が羨ましかった。個人投資家には「決算期」がないからだ。3か月ごとに実績を出す必要がない。じっくり構えてゆけることが羨ましかったのだ。それゆえプロほど自分の資産運用は地味なもの。堅気衆ほど派手なトレーダーの売買を恰好いいなどと見真似する傾向がある。それゆえ私は「そんな虚しいことは止めなさい。金は買ったら忘れるくらいの気持ちで長期保有せよ。」と口をすっぱくして説き続けているのだ。

 

2019年