2019年7月9日
解雇通知のことを英語ではpink slip 桃色の紙と言う。ピンク色の書面が多かったので一般的に使われる俗語になった。
週明け、国際金融市場はドイツ銀行の1万8千枚の解雇通知の話題で持ちきりであった。
一般的に解雇通知の方法は多様化している。
筆者が目撃した事例では、既に職場にリストラの噂が流れ社員たちは身構えていた。ある日の早朝、いつもは必ず定時に出社する部長の顔が見えない。職場はざわめいた。暫くして一人の社員が呼ばれた。それっきり席に戻ってこない。そしてまた別の社員が呼ばれた。また戻ってこない。ここで職場は騒然となった。後は機械的に一人一人呼ばれて消えてゆく。昼頃には職場の半分近くが空席になった。午後、呼ばれなかった社員たちは安堵するとともに改めて企業の過酷な実態を思い知らされる。
桃色の紙を渡されると、その後自席に戻ることは許されない。総務の社員があとでデスク内の私的物品をまとめて返却する。なかには予知して箱に私的物品をまとめていた社員もいる。特にトレーダーなどは、自らの成績不振でいつクビとなるか分からないゆえ普段からこの時に備えているものだ。
解雇された社員への「ケアサービス」を提供する専門業者もいる。Displacement agencyと呼ばれる企業だ。例えば、解雇された社員に一年間いつでも使用できるデスクを提供する。貸しビルのフロアに多くのデスクが並ぶという光景だ。更に大手企業の元人事部社員などがコンサルタントとして雇用され、職探しの手伝い役となる。面接での振舞い方、履歴書の書き方などを伝授する。これらのサービスに対してリストラする企業は当該社員年収の10%を現金で支払うという仕組みだ。筆者が見てきた諸々の事例では、多くの解雇社員はこのサービスを利用しなかった。その10%を現金で欲しいという声も多かった。ひとつのフロアに手持無沙汰気味の元会社員たちが、日がな一日新聞を読んで過ごす光景に耐えられなかったという。 一方、昼日中自宅でウロウロされてはご近所の手前格好悪いと妻に言い渡されて、毎日通うお父さんたちも少なくない。
今回ドイツ銀行のケースでは欧州、米国、アジアと世界的にリストラが一斉に実行されたようだ。
トレーダー仲間などは最初から割り切っているのでショックはない。バックオフィスで働く女性たちには感情的な反応も見られたようだ。解雇組と残留組と分かれてリストラが告知された事例もあったという。
ドイツ語圏のチューリッヒで働いた筆者は、ドイツ人の愛社精神が他国より強いことを実感していたので、ドイツ国内ではかなりのショックとなったことは想像に難くない。
日本企業に勤める若手社員から転職の相談を受けることも多いが、日本企業が世界基準でいかに社員には優しい職場であるか理解した上で決断せよと説いている。