豊島逸夫の手帖

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ドラギ氏レームダック化、日銀は安堵

2019年9月13日

10月に任期終了するECBドラギ総裁。今回のECB理事会後の記者会見では開き直ったかの如き語調が目立った。やはりイタリア人と思わせるほどの印象が残った。

特に財政政策の必要性を訴える時には「財政政策が主導するなら時は今だ」と各国首脳に決断を迫るかの如き表現を用いた。

これまでは財政政策はECBの管轄外と「流して」いたので発言の差が鮮明だ。

深読みすれば、IMF専務理事を長く勤め各国首脳と密接な関係を構築してきたラガルド次期ECB総裁の政治力に期待して後を預けた感がある。

事実、ラガルド氏はECB総裁職に就任するにあたりEU議会の経済金融委員会に出席して、財政政策の重要性を強調している。金融政策の次期司令塔が、就任前から金融政策の限界を示唆したような展開に市場では当惑の反応も見られた。

ドラギ現総裁の置き土産とも思える至れり尽くせりの金融緩和パッケージも派手なリボンが目立つが、中身の実効性には疑問符がつく。

マイナス金利深り、量的緩和再開、緩和は実質無期限かと解釈されるほどのフォワードガイダンス(政策先行き指針)、マイナス金利副作用に対する「(日本式)金利階層化」、「新TLTRO=資金供給オペ継続」などの処方箋付き。以前であればこれぞ「ドラギバズーカ」と市場が熱烈歓迎しそうなプレゼントだ。

しかし外為市場でユーロは一旦急落したもののV字型で急反発した。24時間グラフで見ると、あたかもユーロのフラッシュクラッシュ(瞬間急変動)の如き展開となっている。

マーケットはドラギ現総裁を既にレームダックと見ているようだ。

マイナス金利でも資金需要は盛り上がらずとの指摘も根強く、金融政策の実効性に対する市場からの不信任投票とも映る。

量的緩和については、財政規律を重んじるドイツが依然強い抵抗を示している。今回はドイツ側が本当に妥協したのか、或いは去り行くドラギ氏の強行突破なのか。そもそも寄合所帯ゆえ、ECB購入国債の量は国ごとに割り当てられ33%までとの上限付きだ。「安全資産」とされるドイツ国債はその上限に達している。ここで量的緩和再開となれば制度変更が必要となる。

結局ラガルド次期総裁にバトンを渡し、後は任せるとの本音が透ける。

この成り行きのおかげで日本市場は「円安」という「漁夫の利」を得た。これまで「とばっちり」円高の被害を受けてきたゆえ、筆者は相場の神様が公平だったと感謝している。

しかし収まらないのはトランプ大統領だ。さっそくツイッターでECBは俊敏に利下げしてユーロ安に成功したのに、FRBは「sit、sit、sit」(座りっぱなし)と叱咤している。市場の実勢はユーロ高・ドル安の展開となるシナリオまでは読み切れなかったようだ。

かくしてFRBとECBの緩和競争は、まずECBが第一ラウンドで先制攻撃を仕掛けた。来週の第二ラウンドでFRBがFOMCで0.5%以上の利下げを望むトランプ大統領を無視して0.25%の想定通り利下げ決断するのか。

そして日銀は市場環境が円安に振れているので、とりあえず安堵の余裕に恵まれた。追加緩和出動の意思は明示しつつ緩和カードは出来る限り温存の姿勢となりそうだ。

ドル高に振れるとNY金のアタマは重くなる。とは言え、1490ドル台で下げ止まっている。

さて今日の写真は札幌の夕焼け。三日月が分かるかな。そして円山SIO本店の名物お肉3点セット。道内産ポーク、チキン、そして自家製ソーセージとベーコン。他にも10種類くらい肉の種類があって、少しずつ楽しめる。

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