豊島逸夫の手帖

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NY株史上最高値、金も依然高値圏

2019年7月4日

金融緩和のためなら何でもやると発言して、市場からは「ドラギ・マジック」と歓迎されたドラギ氏が今年10月にいよいよ欧州中央銀行総裁の座を去る。代わって登場するラガルド現IMF専務理事にも「ラガルド・マジック」の期待感が高まる。IMFトップという言わば「名誉職」に近い立場からECB総裁という金融政策の司令塔に「転職」するラガルド氏は、中央銀行の世界から見れば金融政策の「素人」だ。EUから離脱する英国では、まずはお手並み拝見と冷めた見方も目立つ。とは言え、国際金融市場としてのロンドンのシティーでは、世界的中銀緩和競争でFRBと負けず競り合うECBの構図が株高への影響として材料視される。市場が危惧していた筋金入りタカ派のドイツ連銀総裁指名というシナリオは回避された。

一方、米国側では「トランプ・マジック」が効いた。ハト派とされる人物2名をFRB理事に指名したのだ。(一人はまたまた金本位制復帰論者)。あたかもハト派ラガルドECB次期総裁の登場に、FRBも緩和競争に後れをとるなと言わんばかりの人事発表のタイミングである。事実トランプツイートでも、米国以外の各国が緩和に走る中でFRBを叱咤するかのような表現が目立った。問題は「パウエル・マジック」ではなく「トランプ・マジック」ということ。FRBを乗っ取るかのようなトランプ発言がエスカレートする。市場もFRBの政治的独立性の問題はとりあえず棚上げして、ハト派FRB理事2名誕生を祝し、米国株価3指数最高値更新で反応している。

先読みして動くマーケットでは、次は「クロダ・マジック」に注目するのだが、あいにく日銀にはマジックのネタが限られる。中央銀行による株ETF購入を増やすという世界でも日銀だけというネタは残るが欧米市場では官の介入とされ、海外投資家の間で評判は芳しくない。

因みに「ラガルド・マジック」のネタとしてECBによる株購入の可能性は、選択肢のひとつとして市場で意識されている。既に社債購入は実施しているので、拡大解釈すれば株購入もあり得るという期待感を込めた議論だ。

なお、ネタ切れという点ではFRBも問題を共有する。金融緩和余地と言っても利下げ幅がせいぜい2%程度だ。なけなしの2%をいかに有効に使って「アナウンスメント効果」を最大限引き出すか。ここでパウエルFRB議長の「マジック手腕」が問われる。それゆえ今月のFOMCで一気に0.5%の利下げに踏み切るという観測も根強い。もし実現すれば高値警戒感の強い米国株が更に買い上げられる有力な根拠となろう。しかし米中貿易協議が再開され決裂という最悪のシナリオは回避されたので、緊急利下げを正当化するほどの状況ではない。とは言え、明日金曜日発表の雇用統計が前月に続き悪化すれば0.5%利下げ論も現実味が増すであろう。既に米国の経済指標は最近、事前予測を下回る数字が目立つ。

トランプ氏の心境も複雑であろう。米国次期大統領選挙の前哨戦もいよいよヒートアップしてきた。自らが政権通信簿とする株価が、先走り気味で最高値を更新している。肝心の大統領選挙戦の正念場で市場が最高値更新の達成感から急反落するようでは都合が悪かろう。敢えて株価を冷やすような対中、対イラン強硬発言も辞さずと動くかもしれない。今のうちに不可避の調整局面はこなしておくという発想だ。トランプ大統領にそこまでのマーケット・プロ感覚があるとも思えないが、クドロー国家経済会議委員長は米国CNBCのレギュラーコメンテーターでNY証券取引所のブースに頻繁に登場していた。

このような経済政治環境で、NY株式市場はトランプ・マジックとパウエル・マジックの共演を期待している。

興味深いのは、株が史上最高値でも金も依然1410~20ドルの高いレンジに留まっていること。やはり株を買うには高値警戒感が根強いからヘッジとして金も買っておくという発想が再確認された。かねてから本欄で述べてきたが、株↑金↓という単純な教科書的動きになるとは限らないのだ。もし教科書通りに動くだけなら私だって苦労はしないよ(笑)。

2019年