2019年6月24日
国際金価格が1400ドルの大台を突破した。昨年から1350ドルの壁が市場では強く意識されていたが、米利下げ見通しと中東緊張が共振してレンジ上限を上放れた。
市場では「有事の金」と囃されるが、個人投資家がここぞと金まとめ買いに走るのはかっこうの「カモ」になりかねないので注意を喚起したい。
プロ目線では有事の金は「売り」なのだ。
例えばイラク戦争勃発後、金価格は急落した。イラク開戦の「噂」で金を買い増していた金投機筋が、一斉に利益確定の売りを入れたのだ。煽られ踊らされた個人投資家は、はしごを外され高値掴みする羽目になった。
「噂で買ってニュースで売れ」
これは筆者がスイス銀行チューリッヒのトレーディングルームで真っ先に教えられた相場格言だ。
今回も米イラン軍事衝突の可能性が顕在化する過程で金が買われている。万が一、トランプ大統領が対イラン報復軍事攻撃に踏み切れば、金価格は瞬間的に1400ドル台で大きく続騰するだろう。
しかし今回の金買いは短期売買の先物主導だ。しかもAI取引が主体で相場は人間の手を離れている。1380ドルや1400ドルの節目突破も取引が薄いアジア時間帯で起こっている。相場が放物線を描くと下げがきつくなるは必至の地合いだ。
NY先物市場からは強気のコメントが相次ぐが、上海・ムンバイ・ドバイの金現物3大市場では需給が緩み店頭は閑散としている。高値圏で買い控えと現物買取が増加の傾向にあるからだ。そもそも金の実需はその7割前後を新興国に依存する。特に金選好度が文化的に高い中国・インド・中東では長期的金現物保有が前提なので「押し目買い」に徹底している。近々娘が結婚する予定のインドのお父さんは米国FRB議長発言などに関心は持たず、とにかく安く金が買えるときに持参「金」を買い集めておくものだ。
一般的に市場ではNY先物市場の売買残高やETF残高の増減が材料視される。しかし筆者は上海・ムンバイ・ドバイの現地金価格と世界標準のロンドン金価格のスプレッドを重視する。高値圏になるとこの価格差がディスカウントになる。新興国現物市場で需給がだぶつくからだ。これは相場がいずれピークアウトするサインとなる。逆に安値圏になるとプレミアムに転じる。NY先物主導で急落していても、上記の3大現物市場では店頭に列が出来るほど賑わい需給がタイトになるからだ。これは底入れのサインとなる。
有事の金急騰局面では、まずこのスプレッドがディスカウントになるものだ。足元ではムンバイでディスカウントが15ドルまで拡大している。3年ぶりだそうで、それでも買い手がつかないと現地業者は嘆く。
個人投資家へのアドバイスとしては、金は「平時」にコツコツ積み立て感覚で買い増し「有事」に備えるのがよい。その「有事」にはお父さんのリストラ失業などの「家庭内有事」も含まれる。
そして「買ったら忘れる」くらいの気持ちで臨むこと。金は資産運用であくまで「脇役」だ。「主役」の株・債券と組み合わせて保有することで初めて本来のヘッジ効果が得られる。この脇役の出番がなく役立たないことが、実は最も望ましいのだ。
さて、今週末はG20@大阪の特集番組生出演で大阪出張。もう3か月も前からテレビ局は出演者のホテルを押さえているのだけどね。ただホテルからテレビ局までは大渋滞が予想され歩きとなるみたい。スーツを持って梅雨の中を歩くと濡れそうで困った~~。地下鉄も混みそうだしね。
そもそもG20自体が空洞化・機能不全。セレモニーというか首脳たちの顔見世興行というか。今やGゼロの時代と言われる。或いは米中のG2。 ただ日本人にとってはこういう出し物で国際感覚が養われればそれで良いと思う次第。因みに海外メディア・市場はG20本番ではなく舞台裏の米中トップ会談に関心が集中している。
最後に追記。
これ↓年初の相場展望だけど「米利上げ停止で」1400ドル超というのが市場の異変を象徴しているね。年初は「2019年、利上げ何回」で騒いでいたからね。
実際には「利下げ検討」で1400ドル超となった。年初コメントでは万が一利下げとでもなれば1500ドルもとしている。現実には7月に0.5%刻みで大幅利下げがあれば金価格水準は更に切り上がるだろうね。地政学的リスクとして日経インタビューではトランプ大統領弾劾とイランを挙げたのだが字数制限で削られた。
金、米利上げ停止で1400ドル超も 豊島氏:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39831000Z00C19A1EN2000/