豊島逸夫の手帖

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今や「株式評論家」のトランプ氏

2019年8月19日


先週15日にウォルマートが予想を上回る好決算を発表するやトランプ氏はすかさず称賛のツイートを書き込んだ。
「米国動向を示す偉大な存在のウォルマートが素晴らしい(決算)数字を発表した。我が国は他国と違い絶好調なのだ。」
16日には8月のミシガン大学消費者マインド指数速報値が前月の98.2から92.1と7か月ぶりの水準に落ち込んだ。
すかさず記者団との一問一答で問われると「消費はとても良い。」と反論した。


一方でトランプ氏はFRB批判をエスカレートさせ、パウエルFRB議長を名指しで利下げ圧力を強める。
ここにトランプ氏の抱えるジレンマが露わになる。
GDPの中で最大項目の「消費」が強ければ、9月0.5%の利下げなど正当化できない。
米中貿易協議については「もし進展なら株価は上がるだろうが、未だ(中国側の要求を)受け入れる準備はない。」と記者団に語っている。
苦しい釈明である。
株価を政権の通信簿と位置付けてきた手前、弱気の見通しは語れない。とは言え中国に対して安易な妥協の姿勢も見せられない。
更に長短金利逆転現象について質問されると「不況の前兆と言っても2年ほど先の話だろう。」と答えた。
来年の大統領選挙まで米国経済は持ちこたえれば良しとの本音が透ける。


米主要経済紙はトランプ氏がホワイトハウスに閉じこもり相場モニター画面に釘付けになり、株価が急落すると経済顧問たちに「なぜだ!」と問い詰めると報道している。
その経済司令塔であるカドロー国家経済会議委員長は18日、日曜の長寿報道番組に生出演して「楽観論を恐れるな。」と繰り返し強調した。市場が経済に楽観的になると利下げ見通しが後退して株が売られることに釘を刺す発言と見られる。


更に先週は株急落で、トランプ氏が米国大手3銀行トップと電話で意見交換したことも明らかになった。議論は米国経済、個人消費そして金融政策に及んだという。
その金融政策を掌る世界の中央銀行首脳たちが今週はワイオミング州の避暑地に集う。恒例のジャクソンホールシンポジウム開催だ。今週の市場の最大関心事にもなっている。
今年のテーマは「金融政策への挑戦」。
トランプ氏はECBドラギ総裁も名指しでユーロ安誘導と批判しており、まさに金融政策への挑戦的言動を繰り返す。


折からMMT議論も市場では沸いている。
ジム・ロジャーズ氏などは筋金入りの「FRB不要論者」だ。
それは極論にしてもFRBへの不信感は市場に根強い。イエレン時代と異なり金融政策の次の一手が読めないからである。そもそもパウエル氏自ら「金融政策は暗闇を手探りで歩くようなもの。」と語るほどだ。
ドルの代替通貨とされる金の高騰も米金融政策への不信を映す現象である。金を買うという投資行動は米ドルへの不信任投票なのだ。
トランプ氏は「米ドルはパワフル(力強い)だが、他国が通貨安誘導するのは不公平だ。」と語る。
米利下げにも関わらずドルインデックスは98の大台を超え、対円を除き趨勢はドル高基調だ。しかし基軸通貨ドルへの信認は薄れている。金利差を追う投資家はドルを買うが金も買う。「市況の法則」に反する現象だが、決して安心して長期にドルを保有するわけではないのだ。
ヘッジファンドはドル買いに走るが、世界の中央銀行の間では外貨準備としてのドルを売って金への乗り換えが目立つ。
トランプ氏の解説に市場は納得できず疑心暗鬼を募らせ、その結果ボラティリティーだけ高い状況が続きそうだ。


さて今日は付け焼刃の一夜漬け知識はすぐばれるという話。
過日著名な外交評論家とテレビ出演で一緒になりその人が番組本番で曰く。
「米国は着々と金を貯め込み、金による世界制覇を目論んでいる。」(ちょっと、とんでも本の読みすぎじゃない??苦笑)
そして某中国評論家は「米国は金を独り占めにすることにより中国とのパワーバランスを有利にしようと動いている。」(こういう人たちって本に書かれたいい加減なことを簡単に鵜呑みにしてしまうのかね。)
私は両名ともまともな人と思っていたのだけど、この事例を見せつけられ、この人たちが語る他の事柄も信じられなくなった。
因みに両名とも私を金専門家とは認識していなかった(笑)。
番組後控室で私が(誤りを指摘せず、事実だけ)金について説明すると黙りこくってしまったよ。

2019年