豊島逸夫の手帖

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欧州・中国接近、市場も注視

2019年3月27日


市場で米国経済の行方が語られる時、外部要因として引き合いに出されるのが中国・欧州経済不安だ。
その中国国家主席がイタリア・フランスを歴訪した。


パリではマクロン仏大統領の呼びかけで、メルケル独首相とユンケルEU委員長も駆けつけ、異例のトップ会談となった。既に一帯一路の覚書に署名したイタリアは呼ばれていない。
トランプ政権のアメリカ・ファースト主義に対抗して、欧州諸国と中国の多国間経済協力が議論された。マクロン大統領が演説で「中国製造2025」という表現を用いていたことが印象的だ。米国が中国の国家的ハイテク企業助成に神経質になっているので、中国全人代でも米国への配慮から「中国製造2025」という表現は今年削除されたほどだ。トランプ政権と欧州の亀裂が透ける。習近平氏にはチャンスと映る。
欧州諸国の視点では中国マネー導入で雇用増を期待したいが、中国への技術移転、情報流出リスクが払しょくされない。


とは言え市場は政経分離だ。トランプ大統領のロシア疑惑が一応晴れたことはNY株価上昇要因となった。そして中国マネーを受け入れてでも企業業績が改善すれば欧州株は買いである。例えばイタリアの大手石油・天然ガス会社である炭化水素公社(ENI)と中国国有・中国銀行との提携で財務体質が強化されれば良しとする。ドイツ国内でも中国からの投資案件について、政治の都ベルリンでは安全保障上のリスクがまず指摘される。しかし経済の都フランクフルトではファーウェイの5G入札参加も受け入れる姿勢が目立つ。


イギリスに至っては2015年10月の習近平訪英をキッカケに中国製原発購入に動いている。
南欧諸国では厳しい構造改革実行という条件付きIMF援助よりは、当座は「物言わぬ」中国の出資の方がマシとの短絡的見解がある。
欧州金融危機の時は中国の南欧国債買いが入れば利回りは下がった。


イタリア連立政権の中で親中国派の極左「五つ星運動」支持者の声で「人間、腹が減れば、道徳心とか政治的配慮とか言っていられないもの。」という発言が印象的だ。
欧州・中国が警戒しながらも協調すれば、そこで買われるのが新興国株という発想も最近ウォール街で聞かれる。
年金基金には「政経分離」と割り切ることには抵抗感が残るがヘッジファンドにこだわりはない。
写真はアテネのピレウス港。中国資本の落ちたギリシャの港として欧州の新聞記事にはしばしば登場する。私が行った時も港のクレーンが赤色に変わっていた。以前は青色のギリシャ系クレーンだったが。バルカン半島の要衝。


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2019年