豊島逸夫の手帖

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注目のジャクソンホール会議を読む勘所

2019年8月20日

今週市場の最大の注目点は毎年8月にワイオミング州の避暑地ジャクソンホールで開催される中央銀行シンポジウム。今週後半に世界の中央銀行トップたちが集う。

市場の注目はパウエル議長講演だ。

しかし筆者は今年の主役はドラギECB総裁と見る。

まずパウエル氏講演だが、マーケットでは9月0.25%利下げを織り込み済み。0.5%利下げ示唆なら、パウエル氏は市場から「真のハト派」の称号を与えられ歓迎されよう。

しかし今のパウエル議長は四面楚歌の状況に置かれて多くを語れない。

まずトランプ大統領はパウエル氏のことは「無能」とまで言い切るほどだ。FRBより中国人民銀行の方がましだとまで語る。

勿論パウエル氏は政治的独立は死守の姿勢だ。しかし前任者イエレン氏は「あれだけ言われてはストレスにはなろう。」と慮っている。

次にパウエル氏率いるFOMC内部の結束が揺らいでいる。

3月時点では利下げ賛成派と反対派がほぼ半々に割れた。

7月FOMCでは利下げ決定にあたり反対者が2名出た。

パウエル氏は地区連銀総裁などFOMC参加者と多くの時間を割いて電話会議して根回しに余念がないという。

そして最大の強敵はマーケットだ。

今年の展開は、市場が利下げ観測に先走り結果的にはFRBが後手後手に回る結果になっている。

大統領、FOMC参加者、そして市場とパウエル包囲網が敷かれた。

発言の自由度は狭まっている。

代わって主役の座を奪いそうなのが9月末で任期を終えるドラギECB総裁だ。

19日にはドイツ連銀が、4~6月期に続き7~9月もドイツ経済マイナス成長の可能性に言及するレポートを出した。マイナス成長が二期続けば、市場では「景気後退入り」の宣告を受ける。

更に7月のユーロ圏消費者物価指数が前年比1.0増まで落ち込んだ。

ECBの利下げ(マイナス金利深堀り)と量的緩和再開を期待する声が市場では益々高まっている。

欧州ではマイナス金利の社債も加速度的に増えている。

発行体としては金利を払わず逆に受け取れるという資金調達は魅力だ。しかし米中貿易戦争の影響を見通せず、設備投資意欲は盛り上がらずマイナス金利でも資金需要は活性化しない。

ジャクソンホールではこのマイナス金利の効果・副作用についての議論が白熱しそうだ。

更にドイツがいよいよ財政出動との期待も高まり、金融政策緩和と積極財政のポリシーミックスが現実味を帯びる。

18日にはショルツ財務相が「2008・2009の経済危機で我が国は500億ユーロを失った。今は500億ユーロの財政出動が出来る。」とぶち上げたのだ。

但し、同氏はSPD(ドイツ社会民主党)党首に立候補しており、政治的意図は割り引いて受け止めねばなるまい。

今年のジャクソンホール会議のテーマは「金融政策への挑戦」だ。

金融政策の発動余地が狭まりその限界が指摘される中で、過度の金融政策依存への警鐘も鳴らされることになりそうだ。

そして日銀だが、緩和に動けば副作用、動かなければ円高という状況が認識されており注目度は薄い。日本の名前が頻繁に出るのは「欧州のジャパン化」との議論で「長期デフレ国」の事例として引き合いに出される時ばかりだ。切ない。

市場はジャクソンホール待ちだが、19日には金利が反発して株価は上がった。

金利反騰の主要要因は米国財務省が引き続き50年債・100年債発行の可能性を模索継続とウェブサイトで発表して市場に伝わったことだ。米財政赤字が年1兆ドルを突破に向かう時期に低金利での超長期債発行は、財務省にとって魅力的だ。しかしその結果、30年債需要が減ることになるので利回りが反発したのだ。

これを受けて10年債と2年債の長短金利逆転は解消した。あれは真夏の夜の夢だったのか。

前回の事例を精査してみると、僅差の逆転現象が断続的に続いていることが検証できる。

ジャクソンホールでも長短金利が本当に不況の兆しになるのか、についても賛否両論が交わされそうだ。

なおジャクソンホール会議では、中央銀行総裁たちが会場外で個別に会談あるいは立ち話をする例が多い。ここで交わされる本音にも市場は耳を澄ましている。

このジャクソンホール中央銀行会議は金市場の視点でもビッグイベントだ。世界の中央銀行の緩和姿勢が確認されれば、マイナス金利も含め低金利がまだまだ続くことになり、金利を生まない金にとっては持続性のある追い風となる。

一方、マーケットの期待に反して利下げは慎重にというスタンスになれば、利下げを100%織り込んだ市場は一気に巻き戻される。

金価格は現在1500ドルを再び割り込み、案の定、過熱相場が一服している状況だ。

現在の上げ相場が継続するためには、一度は売り戻しの大波にさらされる方が良いと感じる。

このまま上げが続けば、逆V字型のバブルで終わる可能性があるからだ。

なお明日21日水曜日午後1時頃から、テレ朝の「ワイド!スクランブル」にスタジオ出演。テーマは「金」。この時間帯の番組ゆえ初心者向けに面白可笑しくというノリになりそう(笑)。

女性セブンの取材とか一般メディアでも金が話題になっている。

 

2019年