豊島逸夫の手帖

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金1550ドル接近、市場もアジア政情も騒然

2019年8月26日

パウエルFRB議長はジャクソンホール講演で多くを語らなかった、或いは語れなかった。

想定された「適宜行動する」(追加利下げを示唆するFRB用語)と「中盤の政策調整」(利下げサイクルの始まりではないことを示すタカ派的表現)という二つのキーワードのうち、前者は入ったが後者は入らなかった。これには意外性があった。その結果、総じてややハト派と解釈された。

一方、全く想定外だったことがパウエル講演直前というタイミングで発表された中国報復関税。

そしてパウエル講演後に発表された米国報復関税。

23日に起きたことを時系列で整理してみよう。

まずNY時間朝6時半頃。中国政府系新聞とされるグローバルタイムズの関係者が「まもなく中国報復関税発表」とツイートした。この時点では市場がざわめく程度であった。

そして同朝8時。中国が9月1日と12月15日と米国追加関税発動予定時期に合わせ、追加関税発動を発表した。ダウ時間外は150ドルほど急落した。

午前10時。予定通りパウエル講演始まる。直前にトランプ氏は「いよいよFRBの出番だ」とツイートしていた。

ややハト派的との解釈でダウ平均は前日比プラス圏を僅かながら上回る水準まで回復した。

午前11時前後。トランプ氏が「またFRBは何もしなかった」と、パウエル氏が利下げについて明言しなかったことに激怒するツイートを書き込んだ。ジャクソンホールをFOMCのような金融政策決定会合と勘違いしたようだ。

ここから同氏ツイートの嵐が始まる。

「米国企業は中国に替わる相手先を見つけるように命令する。企業を米国に戻し、製品は米国で製造せよ。中国への追加関税は午後に発表する。」

大統領が民間企業に命ずるには「国家緊急事態」を宣言する必要がある。市場は真意を測りかね動揺した。ダウは700超下げる局面もあった。「米国報復関税詳細の午後発表」はずれ込み、NY市場引け後になった。

この時点で俄かに週明けの日本市場の反応に世界の目が向く巡り合わせになった。既視感のある成り行きだ。26日はNY市場引けまで目が離せない一日だ。

週末にはG7が開催され、トランプ氏は反関税応酬の集中砲火を浴びた。記者団から「考え直すつもりはないか。」と聞かれ「考え直すかもしれない。」と曖昧に答え、揺れる心の内が垣間見られる一幕もあった。

以上これまでの展開を振り返ると、まず中国が世界が注目するパウエル講演直前に報復関税を発表したことは偶然とは思えない。トランプ・パウエルの確執を視野に揺さぶりをかけてきた印象を受ける。

トランプ氏は大統領選挙を視野に一貫して中国叩きをエスカレートさせている。ここは民主党からも同調の動きが見られる。そもそも中国叩きは民主党のお家芸だ。

株価、景況感が悪化すればパウエル氏に責任転嫁する。FRB議長を習近平氏と同列に「敵」扱いして「議長職を辞めるなら引き留めない。」とまで発言している。

FRBもインフレ率低下など従来の利下げ理由とは全く異次元の「通商摩擦」に直面。パウエル氏自ら「これは管轄外」として金融政策の限界を認めている。金利を下げても企業経営者は設備投資に動かない。金利より通商問題の方が懸念されているからだ。

金利水準を決めるのも実質的にはパウエル氏よりトランプ氏ということになる。

市場では9月0.5%幅利下げの織り込みを開始した。

トランプ氏が自ら招いた株安を大統領選挙視野に、どこまで容認できるのか注目したい。安全通貨としての円買いにも影響を与える決断となろう。

当然、金買いは加速。

竹島で韓国海軍上陸演習。

香港ではデモ隊に警察が発砲。

北朝鮮は日韓関係を試すミサイル発射。

アジアで有事の金が注目される。

なお、今日の朝日、読売朝刊全国版に載っている金の連合広告に寄稿しています。

2019年