豊島逸夫の手帖

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「歴史的」米国利下げを読む勘所

2019730

いよいよ日本時間8月1日早朝に7月FOMC声明文が発表され、パウエル議長が記者会見で記者団の質問に答える。

今回のFOMCは「歴史的会合」とまで市場で注目されている。

リーマンショック以来、長く続いたゼロ金利から脱却したかと思われた米国経済が、再びゼロ金利に逆戻りの一歩とも読めるからだ。

しかし、今の米国経済をリーマン級の危機が直撃する切迫感は無い。それどころか直近の米国経済指標は好転している。6月雇用統計、小売り統計、そして米国製造業指数にも改善の兆候が見える。4~6月期GDP速報値も2.1%と「減速」ながらも「景気後退」とは言えない。それなのに何故「利下げ」に踏み切ると見られるのか。

まずFRBの金利決定プロセスが変わった。

イエレン議長時代とパウエル議長就任直後までは「マクロ経済データ」の出方を慎重に見極め決定された。

しかし、その後パウエル議長はその基本方針を変えた。世界経済動向も目配りして、経済悪化の伝染が顕著であれば「予防的」利下げに踏み切る姿勢にシフトしたのだ。

FRB特有の用語を使えば「忍耐強く=patient」決めるから「必要となれば適切に行動する=act appropriately」に転換したのだ。今回発表される声明文にも、この用語が入るか否かは市場の注目点となっている。

では、なぜ変わったのか。

トランプ大統領の保護主義政策が世界経済を減速させる可能性が強まったからだ。FRBのスタッフたちもトランプ相場は読めない。とは言え欧州・中国経済の減速は顕著だ。ベージュブックではその影響が米国内でも広範に及ぶことが確認された。そこで天気予報に例えれば、今は未だ薄日も差しているが水平線上には大きな積乱雲が目視できるので豪雨に備えるべきとの発想だ。

更に経済の体温計と言われるインフレ率が上がらないことも中央銀行としてのFRBには気がかりである。そこでカンフル剤として一気に0.5%程度の利下げを唱えるFOMC関係者もいる。

トランプ大統領も0.25%程度の利下げでは手ぬるいとFRBを批判する。パウエル議長の解任を検討するほどの政治的介入も「歴史的」とされる一因だ。

マーケットは既に利下げを織り込んだ。見送られれば市場が大混乱に陥るは必至。もはやパウエル議長に残された選択肢はひとつしかない。

既にマーケットの注目は9月と12月にも0.25%刻みの利下げが続くかとの点に移っている。記者会見でもこの件に関する質問が飛ぶことは必至だ。市場はパウエル議長答弁に使われる形容詞・副詞などに注目する。例えば「とりあえず=for now」というような表現は1~2回の利下げと解釈されよう。

因みにイエレン前議長もこの利下げ議論に参戦。今回の利下げに同意しつつも、これが利下げサイクルの始まりではないと述べている。

なお、更に「歴史的」なことは、現在の米国政策金利目標レンジが2.25%~2.5%と「利下げの出発点」としては異常に低いことだ。1980年には20%という高水準もあった。利下げと言えば5%程度は下げないと効果は不十分であった。然るに今回は利下げ余地が2%強しかない。金融政策の限界が強く意識されている。ではECBと日銀に倣いFRBもマイナス金利まで利下げを強行するのか。

仮に日米欧が揃ってマイナス金利となれば、それこそ未曾有の異常事態となる。

市場ではFRBにはマイナス金利の副作用に対するアレルギーが強いと見られている。

この今の状況を投資家目線で見れば、米国債で運用すればプラス2%程度を得られる。しかしドイツ国債に投資すれば年率0.4%程度を支払わねばならない。マネーは当然米国債に流れる。特に米国債は地政学的リスクに強い安全資産とされる。

一方、欧州国債も買われている。これはECBが近々量的緩和を再開して欧州国債を買ってくれると見込めるからだ。既にドイツ、フランス、スイス国債などマイナス金利は拡大の一途である。あのギリシャ国債でさえ利回りがプラス2%まで低下している。

結果的に株も債券も同時に買われるという「市況の法則」に反した展開となった。

長期投資家は株安のヘッジとして債券も買っておくという発想であろう。短期投機筋は債券短期売買でのサヤ稼ぎを狙っている。

総じて7月FOMCでの利下げ決定は、新興国を含む世界的金融緩和局面の到来を象徴する出来事と言えよう。

さて、今日の写真は新鮮なヤングコーン。シンプルに焼いて食するのだがヒゲの部分も美味。特に蒸し暑い季節には癒し効果もあるね~~。

とは言え、8月1日の今年最大とも言われるマーケットイベントを控え、アドレナリン全開(笑)。ガッツリ肉食系になってるよ~~。

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2019年